蔦重は寛政期、喜多川歌麿や東洲斎写楽、栄松斎長喜(えいしょうさい ちょうき)といった名だたる絵師を発掘し、その魅力を活かした浮世絵を出版したことで知られている。江戸時代の版元たちが様々な作品を出版する中、蔦重の浮世絵作品を特徴付けたのは、人物の顔を大胆なクローズアップで描いた「大首絵(おおくびえ)」だ。この手法によって、歌麿はさまざまな年齢や階層の女性の心情を描きわけ、写楽は歌舞伎役者の個性を鋭く捉えたのである。
本展では、浮世絵黄金期とされる18世紀末に制作された、浮世絵の名品を一堂に集めて紹介。注目は、蔦重が早くも見出した美人画の第一人者・喜多川歌麿による最初期の美人画、重要文化財《婦人相学十躰 浮気之相》。さらに名作《山姥と金太郎 盃》、《婦女人相十品 ポッピンを吹く娘》といった歌麿の作品のほか、歌麿とは対照的に、スラリと背の高い理想的な美を誇張した作風の鳥居清長の《四條河原夕凉躰》を目にすることができる。
蔦重が役者絵独占を目指して見出した絵師・東洲斎写楽の作品も、重要文化財を中心に展示。東洲斎写楽は、わずか10ヶ月で140点を超える作品を残して忽然と姿を消しており、中でも初期の作品は力作が多く含まれる。刀を抜こうとする瞬間を描いた《谷村虎蔵の鷲塚八平次》や、2人が向き合う緊迫した様子を2つの作品で表現した《初代市川男女蔵の奴一平》、《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》、二人大首絵《三代目佐野川市松の祇園町の白人おなよと市川富右衛門の蟹坂藤馬》に加え、《市川鰕蔵の竹村定之進》など、重要文化財が勢揃いする。
附章では、吉原・中之町通りと日本橋の世界観を再現した空間が登場。セットは、蔦重の生涯を描いた大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」(NHK)の美術チームが手掛けており、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような感覚が味わえる。また、大河ドラマ「べらぼう」の小道具や設定資料の展示を通して、江戸文化をどのようにドラマ内で取り入れたかを知ることができる。
特別展を楽しんだ後は、江戸時代にタイムスリップしたかのような没入感を味わえるVRを体験。体験できる街並みは、吉原と日本橋のいずれか。日本橋では、隅田川の船旅の後、蔦重の書店へと向かうコース、吉原では、桜並木と花魁道中のコースが楽しめる。体験時間は、3〜4分だ。
特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」
会期:2025年4月22日(火)〜6月15日(日) 会期中に一部作品の展示替えあり
[前期 4月22日(火)〜5月18日(日) / 後期 5月20日(火)〜6月15日(日)]
会場:東京国立博物館 平成館
住所:東京都台東区上野公園13-9
開館時間:9:30〜17:00
※金・土曜日、5月4日(日・祝)・5日(月・祝)は20:00閉館
※入館はいずれも閉館30分前まで
休館日:月曜日(4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館)、5月7日(水)
観覧料:一般 2,100円、大学生 1,300円、高校生 900円
※中学生以下、障がい者および介護者1名は無料(入館時に学生証、障がい者手帳などを要提示)
※本展のチケットで会期中の観覧当日にかぎり、「浮世絵現代」(表慶館、4月22日(火)~6月15日(日))、東博コレクション展(平常展)も観覧可
【問い合わせ先】
ハローダイヤル
TEL:050-5541-8600