印象派やポスト印象派の巨匠として知られる、ピエール=オーギュスト・ルノワールとポール・セザンヌ。ふたりの画家の芸術を、パリのオランジュリー美術館とオルセー美術館が誇る代表作をとおして紹介する展覧会「オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより ルノワール×セザンヌ —モダンを拓いた2人の巨匠」が、東京・丸の内の三菱一号館美術館にて、2025年5月29日(木)から9月7日(日)まで開催される。


柔らかく豊かな色彩で対象を描きだしたルノワールと、抑制の効いた描写で確固たるフォルムを捉えたセザンヌ。対照的な作風ながら、ルノワールとセザンヌには、1874年、印象派の画家たちによる初のグループ展である第1回印象派展に参加したという共通点がある。細かな筆致によって明るい画面を追求した印象派は、やがて、クロード・モネに見られるように形が溶けだすような表現に向かったものの、ルノワールやセザンヌはこうした方向には進まず、描くものの形を保ちつつ独自の表現を追求していったのだ。

展覧会「オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより ルノワール×セザンヌ —モダンを拓いた2人の巨匠」では、ルノワールとセザンヌというふたりの画家に着目。西洋近代絵画の名品を数多く擁する、オランジュリー美術館とオルセー美術館の所蔵作品52点を中心に、「肖像画」や「静物画」、「戸外制作」といった視点からふたりの芸術を紹介する。

フランス中西部のリモージュに生まれたピエール=オーギュスト・ルノワールは、13歳の時に陶磁器の絵付け職人の見習いとなるも、画塾で出会ったクロード・モネやアルフレッド・シスレーらとともに学んで、画家を志すことに。印象派展の開催に携わる一方、アカデミックな公式美術展「サロン」にも出品し、入賞を重ねている。しかし、形態が溶けだすような印象派の技法になじめず、明確な線描を重視する優美な作風を確立していった。

一方、南フランスのエクス=アン=プロヴァンスに生まれたポール・セザンヌは、パリに出て画家になることを決心した。しかし、印象派の画家や仲間が集う場所に顔を出すも、一部を除いて親しく交流することはなく、パリとエクスを往復して制作に注力。印象派の画家との接触をつうじて、その作品は明るい作風となったものの、形態を重んじ、幾何学的な厳密さを保って制作を行った。

ルノワールとセザンヌは、印象派の画家たちをつうじて知り合い、その親交は生涯にわたって続くこととなった。本展の序盤では、静物画や風景画などの作品をとおして、ルノワールとセザンヌの共通点と相違点を紹介している。

たとえば、テーブルの上の果物を描いた、ルノワールの《桃》とセザンヌの《わらひもを巻いた壺、砂糖壼とりんご》。同時代の身近なモチーフを描くという、印象派ならではの主題に基づきつつ、豊富な色彩で桃をいきいきと描きだしたルノワールと、壺や砂糖壼、りんごの確固たるフォルムを捉えたセザンヌ、ふたりの作風の違いも見てとることができるだろう。

ルノワールとセザンヌはともに、戸外制作をもとに風景画を手がけたことでも共通する。絵画は従来、室内のアトリエで手がけられるのが基本であった。しかし、クロード・モネをはじめとする印象派の画家たちは、移ろう自然の光景をいきいきと描きだすべく、戸外に出て制作を行ったのだ。こうして生まれたのが、細かな筆致を並べることで明るい画面を叶える、筆触分割の技法である。とはいえ、細かな筆致はやがて、描きだすものの形が曖昧に溶けだす傾向を生むことにもなった。ルノワールとセザンヌは、こうした流れに沿わず、形を保つ作風を追求したのだ。