展覧会「アンゼルム・キーファー:ソラリス(Anselm Kiefer: SOLARIS)」が、京都の二条城にて、2025年3月31日(月)から6月22日(日)まで開催される。
現代を代表する美術家のひとり、アンゼルム・キーファー。1945年ドイツで生まれたキーファーは、歴史や哲学、宗教、文化などから幅広く着想を得つつ、絵画、彫刻、インスタレーションなど、あらゆる表現媒体を用いて制作を行ってきた。その作品は、油彩に鉛、砂、藁などを重ねた濃密な物質性と、伝説や神話などに現実に歴史を組み合わせたテーマの重層性により、圧倒的なスケールと迫力を備えるものだ。また、2024年には、ヴィム・ヴェンダースによるドキュメンタリー映画『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』が公開されている。
「アンゼルム・キーファー:ソラリス」展は、アジア最大規模となるキーファーの展覧会。二の丸御殿の台所や御清所、その周辺の庭などを会場に、本展のために制作された幅10mの絵画《オクタビオ・パスのために》や、高さ9mの彫刻《ラー》をはじめ、33点の絵画や彫刻を公開する。
石膏の彫刻と天体模型を組み合わせた《プトレマイス》や《弦理論》を同じ空間に展示したり、《ヨハネ:光は闇の中に輝いている。闇は光を理解しなかった。》《ミラーの法則》《パンドラ》といったオブジェ作品を連ねるようにして展示したり、キーファーの各作品が持つテーマの繋がりを感じられる展示構成となっている。
「アンゼルム・キーファー:ソラリス」では、江戸時代初頭以降の日本と西洋における文化や思想、政治の関係性を探るほか、日本文化のキーファーへの影響にフォーカスする。
キーファーは近年、作品のなかで金をたびたび使用してきた。本展では、こうしたキーファーの作品を主に通常非公開となっている重要文化財の二の丸御殿台所・御清所にて展示。建築に用いられている金色の意匠と、キーファーが金箔を用いて仕上げた《アンゼルムここにありき》《ライン川》といった絵画が響き合う様を見て取ることができる。力強く重厚なタッチと、静謐な空間や自然光になじむ奥深い色の重なり合いに注目だ。
なお、展示会場とは別の空間とはなるが、二条城の二の丸御殿といえば狩野派による金碧障壁画で彩られていることでも知られている。展覧会の鑑賞後に二の丸御殿のきらびやかな障壁画を眺めてみるのもおすすめ。
「アンゼルム・キーファー:ソラリス」ではこの他、現代物理学と禅の親和性、19〜20世紀にかけての日本とドイツの歴史的発展の比較などにも光をあてていく。
特に目を引くのは、ドイツの現代史をテーマに、退廃的な麦畑を表現したインスタレーション《モーゲンソー計画》。第二次世界大戦において“ドイツを非武装化して農業国に変える”というドイツ占領計画がテーマになっており、農業を連想させる“麦”がモチーフとして使用されている。
空間いっぱいに広がる金色の麦をじっくりと見ていくと、ところどころ焦げていたり、朽ちたようになっていたりしている。また、地面を這うヘビの姿や、分厚い本、割れたブロックなど、荒廃した空気を表すモチーフも、麦の間から見て取ることができる。
加えて、部屋の奥から見渡すと、旧約聖書の「創世記」においてヨセフが見た2つの夢を主題とする絵画《ヨセフの夢》と麦畑が連動しているのも注目したいポイント。宗教画の伝統的なモチーフである畑を描く《ヨセフの夢》と、《モーゲンソー計画》のテーマの重なりを視覚的にも感じ取ることができるようになっている。