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アニメ映画『アリスとテレスのまぼろし工場』岡田麿里監督にインタビュー、“儚くも美しい”時が止まった町

アニメ映画『アリスとテレスのまぼろし工場』岡田麿里監督×MAPPA制作、変化を禁じられた世界が舞台

アニメ映画『アリスとテレスのまぼろし工場』が公開へ。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」『心が叫びたがってるんだ。』など、アニメ作品の脚本を数多く手掛けてきた岡田麿里と、『この世界の片隅に』『劇場版 呪術廻戦0』など数々のヒット作を手掛けてきたスタジオMAPPAがタッグを組んだ、ファン待望のアニメ映画となっている。

アニメ映画『アリスとテレスのまぼろし工場』の舞台となるのは、突然起こった製鉄所の爆発事故により全ての出口を失い、時まで止まってしまった町。いつか元通りになるよう変わることを禁じられ、鬱屈とした日々を過ごしていた主人公の中学三年生の少年・正宗は、謎めいた同級生・睦実に導かれ、野生の狼のような少女・五実と出会う。この2人の少女と正宗との出会いと、日常に飽きた少年少女たちにより、世界の均衡が崩れていく。

岡田麿里監督にインタビュー

本記事では、ファンタジックな設定の中で人間の心の機微を繊細かつリアルに描くことを得意とし、2018年にはアニメ映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』で監督デビューを果たした岡田麿里監督にインタビューを実施。製作に至るまでの熱量や製作の舞台裏、さらにはキャストたちの魅力についてたっぷりと伺うことができた。

ファン待望の新作!映画製作に至るまで

岡田麿里 インタビュー|写真5

これまで脚本家としてご活躍されてきた岡田監督ですが、アニメ映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』に続き、再び監督としてアニメ映画の製作に至った経緯を教えてください。

監督デビュー作となった『さよならの朝に約束の花をかざろう』では、とても多くのものを得ました。ただ同時に、アニメ映画の監督はそう簡単にできるものではない、スタッフに迷惑をかけてしまったのではないかとも感じていました。

そんな時に美術監督の東地和生さんがいきなり家の近所までやって来て、「もう一度監督をやるべきだ」と言ってくれたんです。正直、東地さんがそこまで言ってくれたということに感動してしまって(笑)。ちょうど同時期にMAPPAさんからオファーをいただいたこともあり、「やるしかない」と思い決意しました。

『アリスとテレスのまぼろし工場』には、前作『さよならの朝に約束の花をかざろう』のスタッフの多くも製作に携わっていますね。アニメにおいて、同じ現場を共にしたスタッフと制作を重ねることは、大きな強みになると感じていますか?

はい。アニメ映画の場合、関わる人数がすごく多くなってくるので、成功も失敗も同じ経験をしている人たちで制作に臨むと、その分信頼も積み重ねられていく。『さよならの朝に約束の花をかざろう』のスタッフの皆とは、伝えたいこともストレートにやりとりできて、ひとつひとつのシーンにより深く潜っていくことができました。新しく出会ったスタッフの皆さんも、作品に熱をもって関わってくれて、その才能から受ける刺激がありがたかったですね。

岡田麿里 インタビュー|写真6

具体的なエピソードがあれば教えてください。

今回の『アリスとテレスのまぼろし工場』は、実は尺がかなり長くなってしまった関係で、大幅にカットしなければいけない作業が発生しました。それはもちろん、作品に関わる重要な作業になりますが、『まぼろし工場』スタッフと一緒だからこそカットする場所に対して迷いがなくなりました。

アニメでは、絵の持つ情報量ってものすごいんですよね。キャラクターの表情だけでなく、影のつけ方ひとつ、空の色ひとつでさえも、物語や感情を語ることができる。だからこそ、才能あるスタッフが「このシーンでこの表情を描いていてもらえるなら、あっちのシーンはカットしても大丈夫だ」「ここは景色の強度があれば、気持ちは通じるはず」と思える。ジャッジをする際に、仲間の顔が見えるのは、凄く大きいんですよね。

岡田麿里 インタビュー|写真2

『アリスとテレスのまぼろし工場』は、もともと岡田監督が途中まで書いていた小説を、アニメ映画として昇華した作品だと伺いました。今回、アニメ映画のオファーがあった際に、その小説も完成させていらっしゃいますが、なぜ小説にも再挑戦しようと思ったのでしょう?

実際に書き下ろし小説の話をいただいた時には、アニメ映画としての脚本はかなり前に完成していて、コンテや設定もあって作画作業に入っている状態でした。完成しつつある映像からの刺激を受けている今なら、もう一度小説が書けるのではと思ったんです。

同時に、「なぜ小説が書けなかったのか」私自身も理由を知りたいというのがありました。結末までの展開はすでに自分の中にあって、要はもうプロットはできあがっていたんです。なのにどうして書けないんだろうと自分でも不思議で。だけど、脚本を書くことで解決できたというか。

脚本に関してはスムーズに完成させることができたのでしょうか?

まったく悩まなかったわけではないですが、そうですね。私ってやっぱりアニメの脚本家なんだなと改めて思いました。私は、一緒に仕事をする人達の大ファンなんですよ。先ほどの「どこをカットするか」という話と似てしまうのですが、「この人の描くこのシーンが見たい!」と、スタッフの才能を想像すると話が浮かんでくることがあるんです。共同作業の現場があったからこそ、書けた小説だと思います。

ストーリーの着想源について

岡田麿里 インタビュー|写真1

『アリスとテレスのまぼろし工場』は、時が止まった町、廃れた製鉄所など舞台となった場所が印象的です。ストーリーの着想源について教えてください。

以前ロケハンで地方に行ったことがあるんですけど、そこで海辺の街の使われていない駅や誰もいない街並みに出会ったことが、出発点です。閑散とした風景を見た時に、ここの未来はどんどん静かになっていっていくんだなと、ふと感じた瞬間があって。そして、その静かさの中に、寂しさと同時にどこか美しさが共存しているのも、すごく心に残りました。

アニメで描かれる未来って、文明がどんどん発達していくと思うんですけど、そういう土地って、どんな歴史を持っているのかなと考えるうちに、“土地が見る夢”というイメージが湧いてきました。それをファンタジーの設定として使えるのではないかと思ったことが影響しています。

岡田麿里 インタビュー|写真4

作中では、嘘つきのオオカミ少年のような少女・睦実と、野生の狼のような少女・五実という個性的なキャラクターも登場します。この“狼”というキーワードは、どのようにして思い浮かんだのでしょう?

先ほど少し述べましたが、物語を思いついた後、次のステップとして、まずは小説を書くことから取り掛かりました。その際、当時の編集さんから「狼少女ってどう」という意見をいただいたことが、大きなきっかけです。

その時にオーダーを受けた「狼少女」は、狼に育てられた少女の方向性だったと思います。文明から離れたところで人の手ではない存在に育てられた、野性的な少女。そこで、自分が狼少女の物語を書くとしたら……と考えた時に、イソップ寓話の『オオカミ少年』を思い出したんです。狼に育てられた少女だけでなく、嘘つきのオオカミ少年のような少女をモチーフにしてみたら、私の性格的にも自分らしく作品を作れるなと思いました。

睦実と五実は対照的な存在でもあります。この二人の少女を描くことで、伝えたかったことはなんでしょう?

睦実と五実という、個性も違う、抱えているものも違う少女が、強い一つの同じ思いを抱えているというのは、すごく見どころになると思います。ネタバレになってしまうので、あまり多くは語れませんが、“生きることへの衝動”というものを、この対照的な少女たちが異なるアプローチで表現することで、何か観客の方にも伝わるものがあればうれしいです。

岡田麿里 インタビュー|写真7

アニメ映画へと昇華させるうえで、当初の小説から変更した部分はありますか?

“ひび割れのある世界”というイメージは元からあったんですけど、予告にもある龍のように動く煙は、アニメにしようと思ってから取り入れました。生き物のように動く煙のダイナミックさって、映像になったらすごそうだな、見てみたいなと。スタッフのこだわりもあって、凄まじい映像に仕上がってると思います。

アニメだからこそ出来た表現ですよね。またアニメ映画『アリスとテレスのまぼろし工場』は、「どこか懐かしい、それでいてちょっと見たことがないような映像になっている」とおっしゃっていました。

自分はどんな映像が見たいんだろうと思った時に、自分が中高生の多感だった頃に好きだったものを作りたいなと思いました。サブカル女子だったので(笑)、日本アート・シアター・ギルド(ATG)が制作する映画をよく見ていて、その雰囲気がすごく好きでした。

音楽に関しても、当時私が好きだった映画って、音楽を聴くとすぐにその映画のことを思い出せるような印象的な音楽が多かったので、そういった空気感を出せるように、音楽担当の横山克さんにリクエストしてました。

※日本アート・シアター・ギルド:1961年に設立した日本の映画会社。川喜多かしこらが推進した「日本アート・シアター運動の会」を前身とする。フランスの“ヌーヴェルヴァーグ”の影響により、日本においても芸術映画への志向が高まったことを背景に、大手の映画会社にはなかった発想やコンセプトで独自の映画を製作した。

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