「伊庭靖子展 まなざしのあわい」が、東京都美術館 ギャラリーA・B・Cにて、2019年7月20日(土)から10月9日(水)まで開催される。
伊庭靖子は、画家の眼とモチーフの“あわい”(間)にある世界に魅せられ、触れたくなるようなモチーフの質感やそれがまとう光を描くことで、“あわい”の世界を表現し続けてきたアーティスト。自ら撮影した写真をもとに、空間や風景を生かした絵画や版画などを制作している。
「伊庭靖子展 まなざしのあわい」は、伊庭靖子が美術館で開催する、10年ぶりの個展。東京の美術館では初の個展となる。新作や近作に繋がる作品を中心に、東京都美術館で撮影した写真をもとにした絵画や版画を紹介する他、新たな試みとして、映像作品も発表する。人の眼と見る対象との間にある、光、大気、雰囲気など、様々なものに対する関心を、「立体視」を用いた作品で表現する。
会場となるギャラリーには、建築家・前川國男が設計した吹き抜けの大きな空間が広がっている。前川國男がこだわった、はつり壁やぶら下がりの天井照明、打ち込みタイルなどが独特の空気感を演出。雰囲気も相まって、伊庭靖子の、光に満ちた静かな作品をより感覚的に楽しめそうだ。
展覧会タイトルの“まなざしのあわい”とはどういう意味ですか?
私は具体的なモチーフを描くことをしていますが、伝えたいことはモチーフとしての“物”そのものではなく、見ると言うことを通してその人の興味や記憶に触れる経験をしてもらいたい、といったことをイメージしています。それは、私が描く”物”を起点として広がる世界、私の眼とモチーフの間、鑑賞者の視線と作品の間にあるもの、目には見えないけれど存在している何かに触れる感覚を表しています。
どういう経緯から名付けられたのでしょうか?
私は「光」や「質感」をキーワードに作品を作っているのですが、その曖昧な感覚は情緒的な方向に陥ってしまうので、そうならずに説明しすぎない柔らかな言葉ってないのかな、と探していたときに「あわい」という言葉を学芸員の方からご提案いただいたのです。
英語の副題では、「A Way of Seeing」と付けられています。
「A Way of Seeing」には、“物”を見る方法としての絵画を提案したい、という思いを投影しています。”物”を見ていると全く関係のないことを思い浮かべたり、光が発生する様子が想像できたり……。実は、“物”を見る方法、感じる方法を試すプロセスは、今回の展覧会以前の作品制作から続けてきたことなのです。
具体的に言うと、どのような作品から始まったのでしょうか。
1994年の油絵を描き始めた頃から、写真を通して見ることを考えていました。2003年あたりの作品から「光」をテーマに描き、そこから「質感」を描くということに興味を持ち始めました。“物”の質感が自分の体験した記憶を呼び起こす感覚を表現したかった。触覚を伴う記憶は何かのきっかけがあると一瞬で思い出されます。作品を見るというよりも、作品を体感するということをテーマにしていました。
クッションや寝具を描いたシリーズは、光と影、色彩による立体感が、手触りを連想させる。見ているだけなのに、「質感」も確かに感じられる、不思議な感覚を喚起させる。