オダギリジョーにインタビュー、映画版「オリバーな犬」ダークファンタジーたる所以は?“抗って”作り続ける映画

2025年9月26日(金)より全国公開される映画『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』にて、監督・脚本・編集・出演を務めたオダギリジョーにインタビュー。

ドラマ「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」映画化、“犬の着ぐるみ”オダギリジョー再び

ドラマ「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」映画化、“犬の着ぐるみ”オダギリジョー再び

2021年にNHKで放送されたテレビドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」は、俳優のオダギリジョーが脚本・演出・編集を務めた作品。池松壮亮演じる主人公の青葉一平は、鑑識課警察犬係に所属する警察官で、相棒は警察犬のオリバー。なぜか一平にはオリバーが“犬の着ぐるみを着たおじさん”に見えてしまうという奇抜な設定のなか、彼らが不可解な事件に次々と巻き込まれてゆく、コメディタッチのサスペンスが描かれた。

そんな「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」が、待望の映画化。オダギリジョーが監督・脚本・編集、そしてもちろんオリバー役も務める。映画版では、前代未聞の不思議な世界が広がるダークファンタジーが描かれ、一平とオリバーが新たな事件に立ち向かっていく。

オダギリジョーにインタビュー

ジャケット 113,300円、シャツ 70,950円、パンツ 94,600円(すべてキディル(KIDILL)/サカス ピーアール)、シューズ スタイリスト私物
ジャケット 113,300円、シャツ 70,950円、パンツ 94,600円(すべてキディル(KIDILL)/サカス ピーアール)、シューズ スタイリスト私物

今回は、“犬の着ぐるみ姿のおじさん”こと警察犬のオリバーを演じ、監督・脚本・編集・出演を務めたオダギリジョーにインタビューを実施。「オリバーな犬」製作の裏側、そして“今の日本映画”に対する思いなど、貴重な話を伺った。

映画版「オリバーな犬」はダークファンタジー?

オダギリジョー インタビュー|写真7
© 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会

ドラマに比べて、ダークファンタジー要素が増した『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』。それは一体なぜ?これまでにオダギリさんが影響を受けてきた映画や文化も影響しているのでしょうか。

影響を受けたコンテンツを挙げだしたらキリがないですが、否定できないのは、デイヴィッド・リンチであり、テリー・ギリアムであり、フェリーニであり…本当に多くの映画監督から影響を受けてきました。ただ、それを真似るのは何の意味もありません。受けた影響を自分の感性と融合させ、いかに新たな価値観を生みだせるのか、それが大切だと思います。

脚本をつくる際にも“ダークファンタジー感”は意識されていたのでしょうか。

そうですね。脚本を書くには、ある程度設計図は必要なので、狙っていたと言えるんでしょうね。例えば、ティム・バートンの作品や、『アメリ』の監督としても知られるジャン=ピエール・ジュネの作品に見られるようなダークさであり、アート感は欲しいと思っていました。ジュネが初期にマルク・キャロ(共同監督)とコンビで作っていた作品『デリカテッセン』や『ロスト・チルドレン』の世界観が大好きだったんです。ティム・バートンの作品も魅力的ですよね。『オリバー』の世界観は、そういった監督たちのダークファンタジーさと相性が良いはずだとは思っていました。

オダギリ流映画のつくりかた&映画にかける熱意を深堀

オダギリジョー インタビュー|写真6

映画製作の流れについて詳しくお聞きしたいのですが、まずは監督として、どのような映画を作ることを心がけていますか?

自分は器用な作り手ではないので、時代に合わせたり、求められるものを作れるタイプではありません。その時の自分が強く興味を持てること、これを作品にしたいと強く思えるものでなければ作れません。脚本を書きたい!と強く思えないと何事も始まりませんからね。ひとつ言えることは、自分はやはり反抗しているんだと思います。大きな権力や社会の常識、流行などに抗い、挑むことが、モノづくりの源になっているのは確かです。

「オリバーな犬」は、それらのポリシーを反映させた作品、ということでしょうか?

そうですね。今は分かりやすく、伝わりやすい作品が求められますが、それは他の誰かが作るんだろうと思うんです。自分が作る作品は、自分にしか作れないものにしないと意味がないと思っています。『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』では、まさにそうしたこだわりを感じてもらえると思いますし、プロデューサーをはじめスタッフやキャストみんなで拙い監督を支えてくれる、素晴らしいチームだからこそ実現できた作品でした。

オダギリジョー インタビュー|写真4

独特なテンポの映画構成だったかと思いますが、編集の際はどのようなことを考えているのでしょう。

編集に関してはとにかく我流で、経験を重ねることで自分の方法論を築き上げました。なので教科書には書いてないことかも知れませんが、自分にとって編集とは、“目線の誘導”である事。それぞれの画には意図があって、そのカットには“ここを見て欲しい”というポイントがあるんです。次のカットに繋げる際に、目線を動かす方向や距離をなるべく負担のない動きにしています。そうすることで、明確に見て欲しいポイントを見てもらえるようになるし、世界に入り込みやすくなるはずです。

あとは、芝居をいかに面白く見せられるか、俳優をいかに魅力的に見せられるか、というのは当然ありますね。同業者として、芝居の良し悪しははっきりと分かるので、使えるカットと使わない方が良いカットは瞬時に分けることが出来ます(苦笑)。とにかく、自分のこだわりやオリジナリティを詰め込むことが出来るので、編集は一番重要な作業なんですよ。

「オリバーな犬」は映画化したくなかった?その意外な理由とは

オダギリジョー インタビュー|写真9
© 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会

もともと外出自粛を余儀なくされた時に、エンタメの役割を果たせるんじゃないかとの思いから製作がスタートしたドラマ「オリバーな犬」。以前「映画はアート性が大事で、テレビはエンタメ性が大事」とおっしゃっていましたが、今作ではアートとエンタメの融合を図ったのでしょうか?

ご指摘の通り、映画とテレビの表現は全く違うものだと思っています。今も変わらずそう思います。元々、『オリバーな犬』というエンタメをやろうと開き直ったのは、テレビシリーズだったからなんです。当たり前にあった日常が崩れ、苦しい日々の中で、一瞬でも現実を忘れられるようなバカバカしいコメディを作ろうと思ったのは、テレビが生活の一部であるからでした。自宅待機が続く中、やはりテレビに勇気づけられたからです。

今回、映画化の話になった時、そこはやはり引っ掛かるポイントでした。この作品はあくまでテレビドラマの為に企画したものなので。映画にするとなると、全てが変わってきます。映画はお金を払って、別の世界に入り込む“体験”をするものです。テレビと同じ事を続けるのではなく、やはり映画である意味、映画で挑戦するべきことなど、ゼロから考え直した結果、今作の形になりました。

オダギリジョー インタビュー|写真11
© 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会

映画化に踏み切った理由は?

正直な話をすると、予算の問題が一番です。細かい制約を一旦忘れて脚本を執筆したところ、どう頑張ってもテレビドラマの制作費では実現できないと言われてしまって。ただ、ドラマシリーズの時から既に、映画として劇場で上映しても遜色ないクオリティで作っていたので、作り方やこだわるポイントは何ら変わっていません。テレビシリーズの時から、音響にはかなりのこだわりを持って設計していたし、家のテレビだと聞こえないレベルの音で効果をつけたりしていました。今回は映画ということで、そんな細かいこだわりがさらに細かく(笑)、映画館でしか体験できない表現になっていると思います。

映画はもちろん劇場で、と?

やっぱりそうですね。先ほども話しましたが、テレビと映画の違いって、観てもらう環境の違いだと思うんです。作り手は劇場で観てもらうために全てを設定してあるので、映画館で観ないと作品の全ては伝わらないんだろうと思います。家のテレビで見るのとは明らかに違うのは、観てもらえればわかるはずです。

映画館にいけば、生活音や外の音は全てシャットアウトされ、大きなスクリーンと5.1サラウンドの音に包まれて作品世界にどっぷり浸れます。現実から完全に離れられる90分のアトラクションのようなものでしょうか。この猛暑の中、避暑地として映画観に入るのも悪くないはずです。

“いい映画”ってどんな映画?

オダギリジョー インタビュー|写真5

オダギリさんの思う“いい映画”とはずばり?

観た時に、言葉にできない、衝撃みたいなものを得られる映画ですかね。今まで知らなかった世界を知れたり、考えもしなかった価値観に気付いたり、自分でもわからない感情が起こり、しばらくスクリーンの前から立ち上がる気になれないような映画が好きです。

もちろん映画を観た年齢やその時の状況で受け取り方が変わるのも映画の魅力。その時に“イマイチだった”と思っても、数年経って見返したら全然違う感想を持つことも多いので、その辺りも映画の不思議な力だと思っています。

オダギリさんが今まで衝撃を受けて、言葉が出ないほど感銘を受けた作品についてお聞きしたいです。

アメリカに留学した時に友人に勧められた映画で、ジム・ジャームッシュ監督の『ダウン・バイ・ロー』や『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を見た時にものすごい衝撃を受けました。

というのも自分が育った田舎では、映画館で公開されるものはもちろん、街のレンタルビデオに並ぶものも、基本的にハリウッドなどのメジャーエンタメ作品ばっかりだったんです。そんな時、アメリカでインディーズ映画を知り、その美学に衝撃を受けたんです。メジャーなエンタメ作品とは明らかに違う、映画という哲学でありアートであり、文化であり、映画が持つ広大な美しさに気付かされました。

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