エルメス(HERMÈS)財団が東京・銀座に展開する銀座メゾンエルメス ル・フォーラムでは、展覧会「体を成す からだをなす — フラック・グラン・ラルジュ 収蔵作品セレクション展」を、2025年7月19日(土)から10月12日(日)まで開催する。
展覧会「体を成す からだをなす — フラック・グラン・ラルジュ 収蔵作品セレクション展」は、フランス・ダンケルクの現代美術コレクション「フラック・グラン・ラルジュ(FRAC Grand Large)」が所蔵する作品を紹介するグループ展だ。
公共コレクションであるフラック・グラン・ラルジュは、1960年代以降を対象に、フランスばかりでなく世界各国のアーティストやデザイナーによる2,000点超の作品を収集してきた。同コレクションは、さまざまな表現媒体を横断する作品を含むばかりでなく、美術や社会に潜むヒエラルキーやジェンダーなど、今日的な問題を反映している。
「体を成す からだをなす — フラック・グラン・ラルジュ 収蔵作品セレクション展」では、「社会的身体」をテーマに、ヨーロッパやアメリカ、日本出身の現代アーティスト13人による作品を紹介。ヘレン・チャドウィックやブルーノ・ムナーリ、アナ・トーフ、笹原晃平などの作品を取り上げつつ、個人から社会へと、身体を介して架橋する試みに光を当ててゆく。
本展では、アーティストの身体そのものに目を向けた作品を紹介。たとえば、ワルシャワに生まれパリで活動したアンドレ・カデレや、ロンドン生まれのヘレン・チャドウィックだ。カデレは代表作《丸い木の棒》において、縞模様の棒を公共空間に持ちこむパフォーマンスをとおして、展覧会といった既成の芸術空間や制度を問い直した。会場では、パフォーマンスの様子を捉えた写真を、実際の木の棒とともに展示している。
一方でチャドウィックは、女性の役割やアイデンティティ、表現をテーマとするなど、フェミニズム・アートの文脈で知られている。本展では、キッチンに設られた器具をモチーフに、チャドウィック自身がパフォーマンスを行う《イン・ザ・キッチン》を紹介。女性と結びつけられやすい家事の場に介入することで、女性の身体に向けられた視線を問いかけているといえるだろう。
カデレやチャドウィックの例に見られるように、アーティスト自身の身体を起点とすることで、社会的な制度や通念を捉え直すことに繋がる。つまり、身体を介して、個人から社会へと橋渡しがなされているのだ。実際、1970年代には、アーティストの身体そのものが作品の表現媒体となった。そこでは身体が、政治的な道具として、抗うものとして働いたのだといえる。
個人から社会への展開は、アテネ生まれのネフェリ・パパディムーリにも当てはまる。《森になる》は、衣服を彷彿とさせる、10の巨大なファブリックから構成される作品であり、パパディムーリはこれを「身体的なマスク」と呼んでいる。つまり、実際に纏い、動かすことで、人と人の関係性を紡いでゆくことができるのだ。このようにパパディムーリの作品では、個としての身体が他者に向かい、そうすることで社会を織りなすプロセスに開かれているのだ。
作品はそれ自体で閉じたものではなく、むしろ社会に対して開かれたものでもありうる。その例が、東京に生まれ、大阪を拠点に活動する笹原晃平の《サニー》だ。これは、色とりどりの傘を組み合わせた、ドーム状のインスタレーションである。そこで使われるのは、飲食店や商業施設に忘れられた、数多くの傘。その制作はインストラクション、つまり指示書に沿って行われるものであり、アーティストはインストラクションさえ手がければ、原理上は実際の制作に必ずしも立ち会う必要はない。作品の生は、アーティストの手から離れたのちも、展示されるたびごとにさまざまな人々によって紡がれてゆくのだ。