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直行：ホームページに7つのコンセプトを掲げている通りなんですが、一番は「誰にでも着てもらえる可能性があって、その人を美しく見せる本質的な服」ということですね。私は「服のデザインは既にもう世の中に全て出尽くしている」と感じるんです。しかし、編集、テキスタイル、縫製で新しさを表現することは可能で、組み合わせは無限にあると思っています。全てはシルエットと素材の組み合わせのバランスだと思っています。進化させるデザインはあるけれど、ゼロから生むデザインは自分達とは違う方向性だということです。だから、この時代に生まれたデザイナーとして、旧き良きものを編集して現代的に再生させるということ、「スクラップ&リビルド」をコンセプトのひとつに掲げています。
直行：それには2つの理由があります。1つは音楽の世界と共通すると感じていて、サンプリングと、トラックメイキングという手法で音楽が作られていますよね。となると、80年代までに音楽はほぼ全てが存在していると僕は思うのです。その法則は同様の事がそのままファッションに当てはまると思っています。
もうひとつは、人間は遺伝子、ゼロって何だろう?ということです。何も見ないで何も知らないでゼロからデザインできる人はいないのではと思っています。世の中に既にあるベーシックを進化させるというのも立派なデザインだと思っています。
直行：先ほど少しお話ししましたが、2013年春夏コレクションはザ・リラクスのトレンチコートを作りたいと思いました。良い原料というのはメリットとデメリットがあって、100/2(ソウ)のエジプトコットンを経緯(たてよこ)に使ってしまえば、柔らかくていかにも高級な生地になるけれど、柔らかすぎてすぐシワになってしまい、トレンチコートの生地には適しません。
そこで経糸は100/2のエジプトコットンだけど、緯糸は80/3(ミコ)のエジプトコットンを打ち込んで、さらに裏に、横糸のみ極細番手のポリを打ち込んだ。今回、この組み合わせの打ち込みだけで60種類も試作しましたが、その実験を経て、ゴム引きのような最高のはり感を持ちながらしなやかさも併せ持つ、シワにならないオリジナルの素材を作ることができました。浜松の地元だからできることですが、機業の協力体制がなければこんな面倒くさいことは絶対にできません。今回、トレンチの縫製では日本一と言われる工場さんで縫っていただきましたが、現場から素材に対する驚きと賞賛があった。「こんなすごい素材は見たことがない」と、トレンチコートの世界的な代名詞をずっと縫ってきた工場さんに言われるのは、作り手冥利に尽きます。
直実：今それが店頭に並んでいるわけですが、お客様にも好評みたいでホッとしています。長く着ていただけるとさらに魅力が増してくると思うので、ぜひ着続けて欲しいです!
左)ザ・リラクス 2013年春夏ウィメンズコレクションより
右)ザ・リラクス 2013年春夏メンズコレクションより
直行：ウイントンウールというのは、もともと某フランスの高級メゾン用に用意された原料なんです。その残りが競売に掛けられるわけですが、カシミアの10倍以上の価格で、ギネスブックに世界一高い衣料用原料として記録されているほどです。それをある紡績がデッドストックで保有していて、普通なら細番手で引くところを太番手で紡績し、ピーコートやチェスターコート用のメルトンにしてみました。
ピーコートの原点はUS NAVYの1913にあると思っていて、それをベースに作っています。糸は当時と同じネルソン提督時代の染色方法であるログウッド染色で染め、当時の弱点である対抗堅牢度を高めています。その素晴らしい生地の内側には、機能わたを搭載したキルティングを装備して、進化させることも忘れていません。100年着られるコートができたのではないかと思っています。
*US NAVYの1913／アメリカ海軍や沿岸警備隊用に支給された4ポケット、10ボタン仕様が特徴のピーコートで、ピーコートの基本、魅力が全て詰まっており、古着市場での人気も高い。
*ネルソン提督／ホレーショ・ネルソン。19世紀前後に活躍したイギリスの軍人、海軍提督。1805年、トラファルガー海戦でナポレオン率いるフランス・スペイン連合艦隊を破り、イギリス侵攻を阻止、また制海権を獲得した。ここでは当時の軍服(ミリタリー)の染色方法を指している。
直行：ピーコート、チェスターコートを作らせて頂いたのですが、どちらもほぼ完売しました。私たちが1913年のピーコートを参考に作ったように、100年後にどこかの国のデザイナーが参考にしてくれたら嬉しいですね。
