ディオール(DIOR)の2026年春夏コレクションは、ジョナサン・アンダーソンが新たなクリエイティブディレクターに就任して初のショーとなった。2025年6月にはメンズコレクション、9月にはウィメンズコレクションを発表し、ファッション界の話題をさらった。
ディオール以前、ジョナサン・アンダーソンは、約10年にわたってロエベ(LOEWE)のクリエイティブディレクターを務めあげた。ジェンダーレスなアプローチに加え、アートへの造詣が深い彼ならではのユーモアや構築的なシルエットを巧みに融合させ、ファッション界を率いるブランドとしてロエベを成長させた。
そんなジョナサンが手掛ける2026年春夏ウィメンズコレクションは、ディオールがこれまで築き上げてきた、創造の歴史をひとつひとつ確かめるかのよう。かつてファッション界に革命を起こした「ニュールック」をはじめ、世界の流行を創ってきたメゾンのクリエーションに向き合いながら、自身の得意とする手法で変化を加えた。
コレクションの中で、とりわけ目を引いたのは「ニュールック」を彷彿とさせるスタイルの数々。
「ニュールック」とは、40歳でようやく自身のブランドを立ち上げたクリスチャン・ディオールが、1947年に初のオートクチュールコレクションで提案した「バー」スーツのシルエットのことをいう。大きく開いた首元、引き締まったウエスト、そしてヒップを強調するようなペプラムが特徴的なジャケットに、ふわっと広がるフレアスカートをあわせたスタイルだ。別名「コロール(花冠)」ラインといい、ジャケットは「バー」ジャケットとして知られる。
発表時の衝撃は“ニュールック革命”とも呼ばれるほどで、まだ第2次世界終戦後間もない当時、禁欲的な日常から解放を求める女性たちが渇望するエレガントなファッションを体現したものだった。コルセットやクリノリンを使わずとも、美しく女性らしさに溢れるシルエットを描く「ニュールック」は、時代の象徴であり、“平和のシンボル”でもあった。
クリスチャン・ディオール以降、イヴ・サンローランやジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズといった歴代のクリエイティブディレクターたちによって何度も再解釈されてきた「ニュールック」が、次はジョナサンの手腕によって現代版「ニュールック」に進化している。
ジャケットとスカートのセットアップ(13ルック目)は、ジョナサンが手掛ける現代版「ニュールック」のひとつとして提案されている。胸元のアキ具合などは、オリジナルを踏襲しているようにも思えるが、「バー」ジャケットの丈が非常にコンパクト。そしてボトムスにはミニ丈のプリーツスカートをスタイリングした。あえてマニッシュなツイード素材を用いているのもジョナサンらしい表現だ。
注目すべきは、横から見た際のシルエット。バックスタイルを立体的に構成し、身体との間に空間をもたらしている。
かつてクリスチャン・ディオールは、服に躍動感を与えるため、ワイヤーや硬い芯地などを用いて体とのあいだに空間を作り、変幻自在なシルエットを叶えた。ジョナサンも同じくアーキテクチュアルなシルエットの提案はこれまで何度も見せてきている。偶然か必然か、巧みに操られたシルエットは、クリスチャン・ディオールらしさだけでなく、実はジョナサン・アンダーソンらしさにも浸れるポイントだ。
同素材のジャケットとネイビーのスカートをあわせた中盤(28ルック目)のワンルックは、アーカイブの盛り合わせ。「バー」ジャケットは、曲線的なシルエットはそのままに、ピークドラペルが採用され、クラシカルかつ重厚感ある雰囲気で再現されている。