ヴァレンティノ(VALENTINO)は、2026年春夏ウィメンズ&メンズコレクションをフランス・パリで発表した。
アレッサンドロ・ミケーレが着目したのは、暗闇の中に光を見出すまなざし。戦後イタリアの状況を「ホタルの消失」になぞらえた、映画監督・詩人のピエル・パオロ・パゾリーニがクリエーションの出発点となった。ファシズムの台頭、そして敗北を経験した戦後イタリアにおいて、一様な産業化の波が押し寄せたことで文化が均質化し、多様性が失われていった状況を、パゾリーニは水質汚染によってホタルが姿を消し、光のなくなった環境と重ね合わせたのだった。
この「ホタルの消失」を今の現実に置き換えて見てみたとき、不安や暗闇に覆われた社会の中で本当に光は完全に「消失」しているのだろうか。アレッサンドロ・ミケーレはむしろ、輝きはかすかに存在しているのにもかかわらず、それを読み取ることのできない“まなざし”の方が衰えているのだと考える。暗闇の中にいる時に必要なのは、光を強く欲すること、想像すること、そしてかすかな光でもとらえられるように、はっきりと“目覚める”こと。
今季のクリエーションでアレッサンドロ・ミケーレが試みたのは、魅惑的な輝きを放つファッションによって、暗闇に慣れてしまった目を目覚めさせることだ。光を創造することで、人々の想像力を掻き立て、希望へとつながる可能性の扉を開いていく。
コレクションの中には、多彩な光の表現を詰め込んだ。深い黒のジャケットに突如として差し込まれるゴールドカラーのプリーツ、皮膚を思わせるシアーなドレスに連なるビーズ刺繍、光を受けてより一層輝きを増すドレスやシャツのサテン生地、光をすべて通すオーガンザ、そして羽ばたく蝶を思わせる有機的なフォルムのアクセサリー。
総スパンコールのドレスは弾けるような輝きを見せ、辺りが暗くなってもまだ光をまとっている。きらびやかな詩風で花々を表現したトップスやドレス、孔雀やレオパードをモチーフにしたトップスなど、みなぎるような生命力の輝きを感じさせるピースも目を引いた。
見る者に余韻を残していくようなドレープ、ギャザー使いも印象的だ。トップスのネックラインは大きくカーブを描き、波紋が広がるようにしてドレープが刻まれている。ロングドレスはどこか1カ所に生地を寄せ集めるようにしてドレープを生み出したり、切り替えによって布地の流れに変化を生み出すことで、躍動感のある佇まいに仕上げた。
一方、リボンを上下に配したミニドレスは対照的なアプローチに。あえて中心に向かってギャザーを寄せることで、直線的な縦のラインに意識が向くよう構築されている。