映画『BAD LANDS バッド・ランズ』で主演を務める安藤サクラにインタビュー。
直木賞作家の黒川博行による傑作小説『勁草』を原作に、“持たざる者”として生きてきた主人公・ネリと弟・ジョーを取り巻く予測不可能なクライムサスペンスエンタテインメントを描く映画『BAD LANDS バッド・ランズ』。
主演を務めた安藤サクラに、オファーを受けて“武者震い”した、という監督・原田眞人とのタッグについてや、特殊詐欺を生業とし、闇の世界へと足を踏み入れるネリ役とどのように向き合ったのか、また、自身の活動の原動力について、話を聞いた。
映画『BAD LANDS バッド・ランズ』で安藤さんが演じた主人公・ネリはどのようなキャラクターですか?
安藤:ネリは特殊詐欺グループの受け子を束ねるリーダー格として役割を果たしながらお金を稼いで生きている人。一方で、元ヤクザや特殊詐欺の受け子などが暮らすスラム街の「ふれあい荘」の住人たちのお世話をする一面も持っています。
『BAD LANDS バッド・ランズ』の台本を最初に読んだとき、どのように感じましたか?
安藤:最初に台本を手に取った時、とても情報量が多く、なおかつ自分の知らなかった詐欺の世界を描いていたので全部読むのにものすごく時間がかかりました。まず、ネリやジョー達が生きる“裏”の世界を自分の頭の中に描くことから始めなければいけなかったし、そのイマジネーションの中で登場人物たちがどう動きだすのかを考えていたら台本1冊を読み終えるまでに8時間ぐらいかかっていました。
でも、「ネリは野球帽とブラックスキニージーンズを身に着けている」とか、台本が細かく作り込まれていたこともあって、読み込んでいくうちに、自分の中でネリのイメージがしっかりとできていきました。
安藤さんが思い描いたネリの人物像とはどのようなものだったのでしょうか?
安藤:ネリ、という役は物語の主人公ではありますが、どちらかと言えばネリの周りにいるキャラクター達が強く描かれていたのが印象的でした。だから、主人公ではあるけれども印象が薄く、最後まで通して観た時に何となく彼女の存在が残っていくような人物を演じられたらいいな、と考えていました。
もしかしたら役者さんによっては、私とは異なるアプローチで、周りのキャラクターに負けず脳裏に焼き付くようなキャラクターにしたい、と考える方もいらっしゃるとは思うのですが……、私は『BAD LANDS バッド・ランズ』というストーリーの中で生きるネリは何かの印象がない人物にするのが良いのではないか、と考えました。
ネリという役を演じようと思った理由を教えてください。
安藤:オファーから撮影まであまり時間が無くて、悩む時間が無かったんですよね。“原田監督の現場=怖い”というなんとなくのイメージと、一方で憧れみたいなところもありましたが、もう直感的にやろうって決めました。
遠い場所にあると、どうやってあそこに飛び込もうか……ってなってしまいますが撮影が目の前にあったから飛び込めたというか、腹をくくって飛び込めるっていう、そんな感じでした。
その時には武者震いしましたよ。本当に顎ががくがく震えて。前にも本当に自分がやるべき挑戦を目の当たりにしたときに同じことがあって、「また来た、この感覚」と思いました。
ちなみに前はどのような時に感じましたか?
安藤:連続テレビ小説「まんぷく」ですね。その時も自分の中では見えない挑戦というような感覚がありました。山田さんとご一緒できるっていうのも自分の中でもすごく新鮮な挑戦でした。すごく嬉しかったんですね。バディという形で共演するとすごく新しい刺激をいただけるんじゃないかなと期待しました。
ネリの弟・ジョーとの掛け合いは見どころとなっていますね。どのような刺激を受けましたか?
安藤:山田さんは、監督からの要求にこたえる瞬発力と、度胸を持っている方。それは私にはない賜物だと思います。山田さんが普段から、多くの観客の前に立ってパフォーマンスをしていることがその魅力、表現力に繋がっているのでしょうね。
瞬発的に出てくるお芝居にも迷いがなく、山田さんの肝の据わった部分には、一緒に演技をしている中でとても刺激を受けました。ジョーはだらしない部分あるんですが、そういった人間臭い部分も魅力的に演じていらっしゃると思います。
では原田監督とタッグを組んでみていかがでしたか。
安藤:あ、先の話に戻すと、実際に現場に行ってみたら原田監督は怖くなかったです。これ言っておかないと(笑)。
初日は緊張で頭が真っ白でしたし、足も震えていて。最初は怖かったんですよね。でも、その時考えたのが、監督は萎縮して自分の持っているものを出せないことを嫌がる方なのではないかと。
原田監督が綿密に脚本を書いてくれているわけだから、自分が怖いからとか緊張によって、殻を閉じているよりは、自分が受け取った世界観、自分が感じるネリをのびのびと演じていくことが原田監督も作品作りをより楽しんでくださるんじゃないかな、と気づいて。
原田監督は役者の魅力やオリジナリティを引き出していってくれる監督。例えば衣装合わせでも細かい部分は演者に委ねてくださるし、イマジネーションを大事にしてくださるんです。そういったこともあり、緊張もありつつ楽しみながら、撮影を進めることができたと思います。
監督のリズムに入っていく感覚なのかと思いました。
安藤:全然そういうのではないんです。監督の創り出すリズムに乗るのではなく、役者それぞれが持ってるリズムで、それぞれの役柄のリズムとセッションしていく事を求められていると感じました。だから自分のリズムを持って作品に入っていくのが私は本当に楽しかったです。
また、山田涼介さんの演じるジョーや、宇崎竜童さんの曼荼羅(まんだら)など、物語の世界の中にいるみんなのリズムが混ざってもみくちゃになる時には、まさにセッションしていくような感覚がありました。