映画『愚か者の身分』が2025年10月24日(金)より全国公開。主演の北村匠海と共演した林裕太にインタビュー。
映画『愚か者の身分』は、愛を知らずに育った3人の若者たちが、闇ビジネスから抜け出そうとする3日間の逃亡サスペンス。戸籍売買の闇バイトで生計を立てるタクヤ(北村匠海)、タクヤに拾われ軽い気持ちで裏社会に足を踏み入れてしまった“弟分”のマモル(林裕太)、かつてタクヤに戸籍売買の仕事を教えた“兄貴分”の梶谷(綾野剛)の逃避行を、それぞれの視点からスリリングに描き出す。
■人物紹介
タクヤ(北村匠海)…SNSで女性を装い、身寄りのない男たちを利用して“戸籍売買”で稼ぐ。犯罪に手を染めながらも騙した被害者を気にかける一面を併せ持つ。後輩のマモルを闇の世界に引き入れるも、「⾃分がマモルをこの世界に引きずり込んだから抜けさせたかった」と本音を漏らす場面も。
マモル(林裕太)…兄のように慕うタクヤに誘われ、大金目的の軽い気持ちで闇ビジネスの世界に足を踏み入れてしまう。家族から虐待を受けていた過去を持つ。ピュアで屈託のない性格で、面倒見の良いタクヤに可愛がられる。
劇中では、互いを本当の兄弟のように慕い合うタクヤとマモルの姿が印象的でした。お2⼈は本番以外の時間も、“タクヤとマモル”のような関係だったとか。
北村:僕の中では数少ない気⼼の知れた後輩ができた感覚です。これまではどの作品でも⾃分が⼀番年下なことが多く、ここまで密に下の世代とバディ的な関係でお芝居をするのはほぼ初めてでした。裕太と芝居の話をしたり、くだらないことで笑い合ったりするうちに、役と現実の境界線が薄まっていった気がします。
劇中で、マモルがタクヤに「カレー⾷いたいっす。」って深夜にメールをするシーンがあるのですが、実際プライベートでも裕太が「匠海くん、寿司⾷いたいっす。」って⾔ってくれて。
林:美味しかったな…。
北村:そういう時間って本当何にも変えられないなって思いました。
北村さんのかっこいい先輩エピソードはありますか?
林:僕が匠海くんに⾔われて1番嬉しかったのは、「裕太がどういう⾵になっても俺は裕太のことが好きだし、今はそういう時期なんだって受け⽌めるよ。」という⾔葉。今の⾃分を好きでいてくれて、「そのまま変わらずいてほしい」と⾔ってもらえることも嬉しいですが、「変わってもいいんだよ」は相当懐が深い⾔葉だなと思います。だから僕も、後輩に愛のある⾔葉を投げかけられる先輩になりたいと思いました。
北村:誰にでも⾔っているわけではないよ。林裕太という⼈間を、北村匠海が好きになったというだけであって。役者として、⼈として、純粋に素晴らしいなと思ったから。
林:へへ(笑)。
北村: あとは僕⾃⾝が変わる中で、それを受け⼊れてくれる⼈にすごく⽀えられたのも⼤きいです。「変わり続けていいんだよ」って⾔葉は「⼈⽣楽しめよ」って⾔葉とイコールだと思いますし、⼈⽣において何かのゴールを決める必要はない気がして。何歳になっても、何か新しいことをやっていたいなと思います。
『愚か者の⾝分』をどのような物語だと捉え、どんなメッセージを感じたのか教えていただけますか。
北村:次の世代へ“⽣きる”を授ける”物語なのではないかと思いました。剛さん(綾野剛)演じる<梶⾕>から僕が演じる<タクヤ>、そして裕太が演じる<マモル>へと。
それが1番よく描かれているのが⾷事シーンで、タクヤが弟分のマモルに⿂の煮付けを振る舞う場⾯。初めて⼈の優しさに触れたマモルが煮付けを⾷べながら泣いてしまうのですが、あの表情が本当に忘れられない宝物です。誰かに⾷事を振る舞ったり、⼀緒に⾷べたり、“⽣きる”ってそういう瞬間のことを⾔うんだと、タクヤがマモルに初めて何かを教えてあげられた場⾯だったと思います。
最近だとデリバリーも増えて、いつでも何でも届く時代だけれど、結局「⾷する」ことが⽣きる、明⽇を迎える、明⽇を願えるということになる。劇中の2⼈には、親も⾝寄りもいない。お⾦を稼ぐ⼿段も決して許されるものではない。けれど、2⼈で寄り添って普通に煮付けを⾷べる瞬間は、誰にも否定されない「⽣きている」時間だと感じました。
林:同感です。⾷事のシーンはまさに“⽣きる”ことに直結しているシーンです。回想でも、お腹が空いたマモルにタクヤがパンを投げて「⾷えば。」と⾔うシーンがありましたが、要するにそれは“⽣きろ”というメッセージ。それこそ今、匠海くんが「あんぱん」で演じている柳井さん(※)の⾔っていることに通じますが、⾷べ物を分け与えることは裏返りようのない正義なのだと思います。
(※)…NHKの連続テレビ⼩説「あんぱん」の登場⼈物・柳井嵩(やない・たかし)。「アンパンマン」の⽣みの親である漫画家・やなせたかしをモデルにしている。アンパンマンは、戦争体験や⾷料不⾜への思いから、「困っている⼈に⾷べ物を届けること」を真の正義と捉えたやなせたかしが創造したヒーロー。
⾷事のシーンが“⽣きる”を繋ぐバトンの役割になっているのですね。
林:⿂の煮付けを⾷べる場⾯なんかはまさに「2⼈で⽣きよう」という決意を彷彿させるシーンだと思います。あのシーンは何回同じ芝居をしても勝⼿に涙が出ました。泣き顔はしっかり映っていないけれど、バックショットで震える肩が残っていて、それが映像として記録されたのは良かったなと。
北村:マモル役はオーディションでしたが、実際に袋から出して⾷べたのは裕太しかいなかったそうです。僕なら絶対できない(笑)。でも「お腹空いてたんで」って、無垢な⼼でやれた林裕太は、もうマモルをやるしかないでしょうという。実際撮影してみても、彼にしかできない役でした。
そもそもなぜ、『愚か者の⾝分』への出演を決められたのですか?
北村:タクヤが「次の世代に何かを残したい」という思いを持っているところに魅かれたことが出演した理由の1つです。僕も最近はずっと、後輩たちのために何ができるかを考えています。
「次の世代に何かを残したい」という想いはどのようにして⽣まれたのですか?
北村:僕⾃⾝が先輩の皆さんから沢⼭のものを受け取ってきたというのが⼤きいです。剛さんの世代から⾊んな影響を受け、⾊んな⾔葉をもらい、それがあって今役者としてここに⽴っていられているという気持ちが強くあります。
次の世代に役者として何を残せると思いますか?
北村:前提として、今後もっともっと、役者の世界は変わっていくと思います。後輩との関係性、芝居のあり⽅、⾊んなことが刻々と変わる。僕が⼦役を始めた20年前と今を⽐較しても、役者の世界は全く違うんですよ。
確かに⼟台はこの20年でも変化していますね。
北村:はい。たとえば僕らの世代では、お亮(吉沢亮)が『国宝』で世界からも⾼く評価されています。僕は、邦画が⽇本国内だけじゃなくて世界に評価されて欲しい、もっと世界中の⼈に届いて欲しいという⼀⼼でやっているので、次の世代が世界で活躍するための環境を⽤意してあげたい。
監督へのチャレンジも?
北村:監督業もそのひとつです。常に作品に誠実に向き合うだけなのですが、それが結果的に、裕太たちの世代が何かスタートを切る時に糧になるといいなと思っています。
次の世代の特徴をどう⾒ていますか?
北村:ここ最近、裕太の世代の役者と芝居をすると爆発⼒を感じるんです。しかも、みんな数年で、ものすごいステップを踏んで駆け上がっている。僕は2026年で芸能⽣活20周年を迎えますが、僕の20年間と、裕太たちが過ごした5年って同じじゃないかと思うんですよ。
どういったところから感じましたか?
北村:実際に芝居をしていても、僕が⼦役からやっているからこそ忘れていたフレッシュな感覚を持っていて、その爆発⼒に僕は到底敵わない。
それらを踏まえると、裕太たちの世代は、僕が⾒ていないような景⾊をもっともっと⾒るだろうなと。僕ももちろん役者として何かを成すために⽣きていますが、頭の⽚隅では、もう次の世代が主役という感覚があります。だからこそ何を残せるのか、何を⾔葉にできるのか。剛さんから受け取ったものを、どう嚙み砕いて渡せるのかと常々考えています。
林さんは北村さんから沢⼭のものを貰っていると思います。その中で特に印象に残っているところは?
林:映画業界に対する視野の広さです。これまで僕は、「⾃分のことを考え始める」ことが役者の第1歩だとして、次は「⾃分のことを客観視する」のが良いと思っていました。だけど匠海くんの場合は違う。⾃分の世代、後輩の世代のことも含めて、すべて俯瞰で⾒ています。
それはどこから来ていると思いますか?
林:「邦画を良くしたい」という⼤きな願いじゃないかな。その意識の持ち⽅ができるから、⾊々な作品で安⼼して主役を任せられる⼈、匠海くんなら⼤丈夫ってみんなが⾔える存在なのだと思うんです。
憧れとなる存在ですね。
林:僕も匠海くんのように安⼼感を持たれる⼈になりたいし、その視野の広さを⾒習いたい。⾃分のことだけではなく、友達、役者仲間、未来の後輩のことも考えられるようになりたい。そして、もっと⼤きな範囲で映画業界というものを考えられるようになりたいです。