映画『盤上の向日葵』が2025年10月31日(金)より全国公開へ。主演を務める坂⼝健太郎と渡辺謙に2Sインタビューを行った。
映画『盤上の向日葵』は、柚月裕子による同名小説の実写化作品。<光と影><⼈間の業><⼈⽣を⽣き切る>という3つのテーマを根底に据え、将棋の世界を背景に、とある山中で発見された白骨死体事件の真相を巡るヒューマンミステリーだ。
事件の鍵を握るのは、死体とともに発見された高価な将棋の駒。この世に7組しか現存しないという貴重な駒の持ち主は、プロ将棋界に彗星のごとく現れた若手棋士・上条桂介だった。やがて上条桂介をめぐる捜査線上には、“賭け将棋”で圧倒的な実力を持ちながら裏社会に生きた男、東明重慶(とうみょう しげよし)の存在が浮かび上がる。
■人物紹介
上条桂介(坂口健太郎)…奨励会を経ずプロになった異端の天才棋士。謎の白骨死体を遺棄した容疑がかけられる。
東明重慶(渡辺謙)…“鬼殺しの重慶(ジュウケイ)”と呼ばれる歴代最強の破天荒な真剣師。桂介の人生に大きく影響を与えていく。
映画公開に先駆け、坂口健太郎&渡辺謙にインタビューを実施。『盤上の向日葵』にてそれぞれ演じた役柄について思うことや、作品への向き合い方、‟芝居の魅力”まで、貴重な話をたっぷり伺うことができた。
最初に作品に関係なく、お芝居をする上でのポリシーを教えてください。
渡辺:“この作品をやる”と決めた瞬間からは、100%その作品が良くなることをずっと考えます。クランクイン前の役作りから撮影中、プロモーションの期間までずっと。
実は作品を選ぶ段階だと、大概6、7割やめようかなって思う方が強いんです。でも、もしかしたら面白いかもしれないとか、やるべきかもしれないと思って「やります!」って心を決めています。結構悩んで決めるので、逆を言えば、自分がやらなかった作品には何の未練もない(笑)。
坂口:なにか大きい決め手はあるんですか?作品によって違います?
渡辺:いや、違うよね。でも面白いなと思うのは、次に“こういう感じの作品をやりたい”って思うと、それに関する情報が勝手に入ってくること。例えば、テレビを見てたら、その作品に関連するような特集が流れていたり…そんな感じで自分のアンテナが向くんでしょうね。
坂口:ポリシーと言えるのかわかりませんが、映画やドラマの撮影期間をとにかくいい時間にしたいと思っています。撮影中って四六時中一緒にいて、同じお弁当を食べて、スタッフ・キャスト一丸となって1つの作品を作るじゃないですか。
僕は現場がすごく好きなのですが、現場をどれだけ愛せるかで現場の士気が上がったり、皆さんが僕の役を愛してくれるかどうかが決まってくると思うんです。現場の“いいものを作ろう”というポジティブなエネルギーがいい作品作りに繋がりますし、観客の皆さんにも作品を愛していただけると信じています。
『盤上の向日葵』では、過酷な人生を生き切る主人公・上条桂介の姿が印象的でした。お2人がこれまで困難や逆境を乗り越えたエピソードをお伺いできますか?
渡辺:すいません、逆境だらけの人生なので(笑)。どれをと言われても、もう本当に…。ただ自分でどうにもならないことでいうと、病気を乗り越えるのは非常に大変ではありました。でも少なくとも今こうやって生きて、いろんな役を演じさせていただけているので、ありがたいなと思っています。
坂口:挫折という言葉があったとして、挫折ってその人の気持ちの持ちようだと思うんですよ。そんなの挫折じゃないよって意味ではなくて、その人がそれを挫折と受け止めるか、受け止めないかの違い。人の悩みやしんどさは、抱えているその人の感覚が正しいと思う。それを前提として、僕がどう挫折を受け止めるかでいうと、元気でさえいられればいいと思っています。
渡辺:坂口くんはめげないのよ!
坂口:はい、めげない、逃げないですね。例えば、大きい失敗をしちゃった時。今まで丁寧にやってきたことは、きっと裏切らないという気持ちもどこかにあったりするし、全てが失敗じゃないっていう風な気持ちになったりします。
だから僕、あの時落ち込んだな~みたいなことってあんまりないんですよね。
では、お芝居を続けられている理由や魅力は何だと思いますか?
坂口:すごく単純ですが、楽しい!面白い!というところ(笑)。自分が役に入ると、実際の自分とは違うのに“その人”としてカメラが切り取ってくれる。あとは、人と相対してセリフを交わす瞬間が楽しくて、忘れたくなくて続けてるんだろうなと思います。
子供の時って、おもちゃの遊び方を知らなくても、このおもちゃってどういう構造なんだろう?って好奇心で遊んでいるのが楽しいじゃないですか。あの感覚に近いものがある気がします。
渡辺:俺はね、本当に生きるか死ぬかみたいな病気をした時に、“もう生きてさえいればいいや”と思っていたんです。でも病気が治って復帰したら、プロデューサーや観客のみなさんに「すごい、よく戻ってきたね」っていう言葉をたくさん頂いたんです。
そこから5年経って病気が再発した時に、復帰当時かけてもらった言葉がすごく心に残ってて。俺は俳優として戻らないと生きてる意味がないんだっていうぐらい、芝居への思いが強かった。だから、それ以降の今もちょっとおまけの人生ではあるんですが、自分の命がある限り芝居を続けていきたいっていう風にはずっと思っています。
演じられた伝説の賭け将棋の真剣師・東明重慶は、将棋、そして“人生の向き合い方”について大きな影響を与える役でした。意識したことを教えてください。
渡辺:意識というより、久々に“こんなにいい加減で一貫性のない男”をやるのが面白かったですね (笑) 。 このタイプの男を演じるのは本当に久しぶりで、新鮮でした。
主人公へ影響を与える人物像という点では『国宝』など他作品とは違いますか?
渡辺:全然違います。自分が“何かを与える”という矢印じゃない。勝手に自由に生きてる男が、結果として周囲に影響を及ぼしてしまう。相手がこちらに向いてくる感じで、“与えるぞ”という認識はあまりなかったですね。
坂口さんは、これまでにない役柄でしたが、挑戦しようと思った理由はありますか?
坂口:僕の作品選びの決め手は、脚本から愛情を感じられるかどうか。
『盤上の向日葵』でいうと、描かれているものは決して綺麗な愛情ではないかもしれない。いろんな愛の形がある中で、愛情が憎しみに変わっていく様がすごく濃厚なものに思えたんですよね。僕は、憎しみも愛情の1つだと捉えているので、脚本からすごく強いエネルギーを感じたのが決め手になったと思います。
最後に、お2人が作品を通して“1番伝えたかったこと”は何でしょう?
坂口:実は“これを伝えたい”って固定しないタイプなんです。もちろん“こういう生き様を観てほしい”はありますが、最終的には観客の方の“その人自身の歴史や環境”で受け取り方が変わる。だから任せたい。僕らはこういう思いで撮りました。どう届くかは分からないけど、楽しんで欲しい。そんな気持ちです。謙さんは?
渡辺:僕も同じです。映画は“届いた時”に完成する。もちろん、とんでもないボールを投げたら受け取ってもらえないから、作品としての狙いは定める。ただ、それを打ち返すか、空振りするかは観客の問題。でも今回は“結構な剛速球”になってると思います(笑)。
坂口:そうですね(笑)。
渡辺:それから、人は“正しい生き方”をしているから生きられるわけじゃない。どんなものを背負っていても、どんな困難や過去があっても、生き切る。これは原作者・柚月さんの、苦しいほどのメッセージだと思うし、この映画にも確かに通っている気がします。
【作品詳細】
映画『盤上の向日葵』
公開日:2025年10月31日(金)
監督・脚本:熊澤尚⼈
出演:坂口健太郎、渡辺謙、佐々木蔵之介、土屋太鳳、高杉真宙、音尾琢真、柄本明、渡辺いっけい、尾上右近、木村多江、小日向文世
⾳楽:富貴晴美
主題歌:サザンオールスターズ「暮れゆく街のふたり」(タイシタレーベル / ビクターエンタテインメント)
原作:柚月裕子「盤上の向日葵」(中央公論新社)
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/松竹
<衣装クレジット>
渡辺謙:
ブルネロ クチネリ ジャパン
TEL:03-5276-8300