リブ ノブヒコ(RIV NOBUHIKO)の2026年春夏コレクションが発表された。
高級な素材と繊細な手仕事に育まれてきたクチュールは、ヨーロッパにおいて、卓越性を体現する特権的な装いであったといえる。この意味で、華やぎの限りを尽くすクチュールとは、きわめて閉じられたものである。しかし、ラグジュアリーメゾンで経験を積んだリブ ノブヒコのデザイナー、リバー・ジャンと小浜伸彦にとって、手仕事に紡がれるクチュールとはむしろ、手の温もりを介して、日常へと開かれるべきものであった。
リブ ノブヒコがクチュールを日常へと開くおり、そのよすがとなったのが、デザイナーのルーツである東洋の手仕事であり、ありふれた素材である。たとえば、刺し子。ファブリックを重ね、模様を刺繡で施す刺し子は、もともと保温や補強のために、布地を刺し縫いにしたものであった。リブ ノブヒコは、土着的な刺し子とクチュールの刺繍の意識を交錯させつつ、シアー素材のブルゾンや、華やかに広がるキャミソールトップスに、花柄のモチーフを縫い留めることで、エレガントな佇まいに仕上げているのだ。
こうした手仕事に携わっているのが、結婚や子育て、介護などを理由に、職を離れた人々だ。リブ ノブヒコは、いわば、近代的な資本主義の体制の外部にいるこうした人々が、自宅で手仕事を行う仕組みを整えている。思い返せば、ヨーロッパのクチュールが卓越性を示す理由のひとつは、それが精緻な手仕事を膨大な時間にわたって要するためであった。富の消費を背景とするヨーロッパのクチュールに対して、リブ ノブヒコのクチュールは、それをとおして生を紡ぐという意味で、手仕事にまつわる時間の価値を、消費から生へと転換させていると言ってよいだろう。
リブ ノブヒコはこうして、日常の生に根差しつつ、そこにクチュールの華やぎを宿してゆく。ふわりと広がるスカートやノースリーブのトップスには、4つの円を組み合わせたブランドのアイコンを家紋に見立て、それをレースで表現。フリンジの華やぐトップスやミニスカートは、房飾りに着想を得たもの。あるいは、軽快に仕立てたテーラードジャケットには、ささやかな花の姿をボタンの刺繍で表している。そんな視点であたりを見渡してみると、日常にはそれと気付かず、美しい造形が随所に息づいているのだ。
それならば、今季のリブ ノブヒコがテーマとした「花影」──月光のもと、咲き乱れる花々が地面に落とす影の謂いである──とは、日常にすくい上げる華やぎを、すぐれて象徴するものではなかろうか。デザイナーのジャンと小浜は、月を華やかなクチュール、夜の花をありふれた日常に見立てたうえで、足元に広がる花の影に美しさを見出している──花影とは地面に咲くがゆえに、その美しさは掬い/救い上げられねばならない。このようにリブ ノブヒコにとって、日常に宿すクチュールとは、手仕事にまつわる価値観を宙吊りにすることで、あらゆる人々が美しさを感覚する自由を開くものなのかもしれない。