マリーン・セル(MARINE SERRE)の2025年秋冬コレクションがフランス・パリで発表された。
今季のマリーン・セルは、1950年代から80年代にかけてのファム・ファタール=“運命の女”を思わせる、パワフルで官能的なスタイルを提案。フィクションをヒントにしながら、構築的なフォルムやシンボリックなモチーフを組み合わせ、現実と幻想を行き来するようなウェアを展開している。
たとえば、フランス映画『イルマ・ヴェップ』にオマージュを捧げるレザーのボディスーツは、パワーショルダーを採用しウエストのシェイプも強調。ムーンモチーフの刻印を全面に施すことで、神秘的なヒロインのスタイルにマリーン・セルのアイコンを重ね合わせている。また、1950年代のミディ丈を連想させるクラシックなワンピースには、フューチャリスティックな肩のフォルムを採用。アンティーク調のチェスターコートには、タイガー柄のボディスーツを合わせてワイルドなエッセンスを加えている。
加えて特徴的なのは、だまし絵的なデザインであろう。レースの装飾でランジェリーパーツを構築的に組み込んだドレスは、ランジェリーという私的な要素をパブリックに表し、センシュアルな雰囲気を演出している。
さらに、ブラックとピンク、レッドのグラフィカルなプリントを施したドレスも、スリップドレスをレイヤードしたスタイリングに見せかけただまし絵のデザイン。ランジェリーの上から皮膚のようなオーガンザのドレスを重ねて、圧縮された布地が柄を織りなすようなドレスピースも展開された。
コレクションの中でも際立っていたのが、深紅に彩られたピース。デヴィッド・リンチによる米ドラマの『ツイン・ピークス』のレッドルームの世界観を彷彿させるようなカラーリングで、サテン地のドレスやアイコニックな三日月モチーフのボディスーツ、ベルベットのブルゾンなどに用いられている。
空気をふわりと孕むドレスのシルエットは、幻想的なムードをまとい、全身を深紅に染め上げるようなボディスーツは黒いビスチェとのコントラストが目を引く。
クチュールピースとして、深紅のリボン付きメダルで構成されたドレスも登場。何かを賞賛するという、メダルとしての本来の意味合いではなく、ただの装飾として用いられているのがポイントで、様々な造形のメダルが光を受けてキラキラと輝いている。賞賛の価値を失ったメダルに“装飾”としての新たな意味合いを吹き込む、フィクション的なクリエーションの好例だと言えるだろう。