大泉洋にインタビュー。大泉は、映画『⽉の満ち⽋け』で主演を務める。
『⽉の満ち⽋け』は、直木賞を受賞した佐藤正午の同名小説の実写映画化。“愛し合っていた一組の夫婦”と“許されざる恋に落ちた恋人たち”。全く関係がないように思われたふたつの物語が、時を経て交差する珠玉のラブストーリーだ。
大泉が演じるのは、愛する妻⼦を不慮の事故で失ってしまう主人公・小山内堅。劇中では、突然の悲しみに暮れる中、数奇な運命に巻き込まれていく。“生まれ変わり”という要素を取り入れたあまりにも切なすぎる愛の奇跡の物語に、大泉はどのように向き合ったのか。公開に先駆けてインタビューを実施した。
『月の満ち欠け』の脚本を初めて読んだ時の感想を教えて下さい。
大泉:大変辛い役だなと思ったのが正直な感想です。娘をもつ父親として感情移入しやすかったので、尚更そう思ったのかもしれません。
出来れば避けたい役だったと。
大泉:そうですね。でも前向きになれるエピソードがあり、何よりも脚本が面白かったです。家族を突然失ってしまう堅の物語に、目黒君演じる三角哲彦と有村さん演じる正木瑠璃のラブストーリー、そして“生まれ変わり”という要素が見事にバランスよく絡み合う素敵な脚本だったので挑戦してみようと思いました。
むしろ脚本がここまで面白くなければ、家族を突然亡くすという想像を絶するほど苦しい感情と向き合わなければならない今回の役は、断っていたと思います。
特に辛さや苦しさを感じたのはどのシーンですか。
大泉:妻と娘の死を確認する死体安置所のシーンは、部屋に居続けられないと思うほど苦しかったです。このシーンも含めて言えることですが、家族を失ってからのシーンは、監督に特別に求められていなくても何度も泣いてしまいました。
堅は家族を亡くしてから心に蓋をして生きていたと思うのですが、だからこそ、家族の死ともう一度向き合わなければならなくなったときに、溢れ出てくるものが多かったのだと思います。
『月の満ち欠け』で描かれる小山内家はとても仲の良い家族でした。大泉さんは小山内家をどのように捉えていましたか。
大泉:ありがたいことに、僕の家庭も僕を育ててくれた北海道の家族も仲が良くて温かい家族なので、小山内家に対して羨ましさや憧れよりも“親しみやすさ”を感じましたね。
堅と梢の夫婦関係も魅力的でした。
大泉:そうですね。大変仲の良い夫婦だったなと思います。
堅も梢もやたら惚気るなと思いました(笑)。僕自身、そのような人間ではないですし、今まで出会った家族を思い返しても同じタイプの夫婦は中々いないので、実は“惚気る夫”という役作りが一番難しかったかもしれません。
第一に、夫を褒める妻って中々いないですよね(笑)。小山内家自体には親しみやすさを感じていましたが、夫を褒める妻に関しては、僕の母親とも妻とも通じない部分でした。もちろんお互い好きで付き合って、好きで結婚しているわけですが、しばらく経つと「付き合っていたときの記憶、どこに行っちゃったの?」って思うくらい、素気なくなりますよね(笑)。
たしかに現実世界に“惚気る夫婦”は中々いないかもしれません(笑)。でも劇中での堅と梢は違和感がない自然な夫婦だった印象です。
大泉:それは梢を演じたのが柴咲さんだからだと思います。違和感を与えずに、むしろ「こんな夫婦いるかもしれない」と思わせてくれる佇まいが素晴らしいですよね。何でも出来てしまう柴咲さんだったからこそ成立した小山内夫婦だったと思います。そのお陰で僕自身も気恥ずかしさなしに、“家族を愛する男”を演じることができました。
『月の満ち欠け』では28歳から55歳までの長い時間を演じました。その点で特に意識したことはありますか。
大泉:正直、28歳あたりは諦めていました(笑)。衣装さんやメイクさん、周りのセットにお任せしようと思っていましたね。僕が心掛けたことは、幸せな日々を過ごす若き小山内をとにかく明るく元気に演じることぐらいです。
ただ、妻と娘を失ってから数年経つシーンを撮影する前は、やつれた感じを出すために体重を落としました。気持ち的にも食欲が湧きませんでしたし、本当に厳しい撮影でした。
『月の満ち欠け』は “生まれ変わり”が1つのキーワードになっていますが、もしも大泉さんが生まれ変わったらどのような人生を歩みたいですか。
大泉:悩ましいですね。人を笑わせることは好きですが、俳優のように顔ばれする仕事はもういいかな…(笑)。基本的に面倒くさがりなので、周りの目を気にしなければならない場所にプライベートで足を運べないんですよね。生まれ変わったら、いつでも気の向くままに行きたい場所へ行ける人生を歩んでみたいです。
具体的にやってみたいことはありますか。
大泉:素敵な飲食店をプロデュースする人に憧れますね。1回転目は一般のお客さんで満席にするけれど、2回転目は常連のお客さんや仲の良い人だけが入れるようなお店をいくつか持っている人になりたいです。
東京には素敵なお店がたくさんありますが、数か月先まで予約出来ないお店が多いというのも現実。行きたいときにふらっとは入れないのが、悲しいなと思います。だからこそ、僕が行きたいときに必ず入れるようなお店をプロデュースする人になりたい。
でも、テレビを見ていたら「やっぱり人を笑わせたいな」と思うのでしょうね。特に「ぴったんこカン・カン」のようなバラエティ番組を見たら、前世の記憶を思い出して「昔、出た気がするな。また出たいな」と思わずにはいられなさそうです(笑)。
“人を笑わせること”が大泉さんのキーワードのような気がしますが、役者として参加される映画は笑いがある作品ばかりではありません。それでも出演し続けるのは何故でしょうか。
大泉:僕の場合、役者の仕事で必ずしも笑いが必要というわけではありません。その分、“人を笑わせたい”という願望はバラエティで叶えさせてもらっています。
役者としては、“泣きました”でも “腹が立ちました”でもどんな感情があってもいいのですが、総じて「面白かった」と思ってもらうために続けているような気がします。僕にとって作品に参加する目的は、“演じること”ではなく、あくまでも“見てもらうこと”。だから誰にも公開しない作品であれば、出演しないと思います。
「面白かった」と思ってもらうために続けている俳優業。その魅力とは何でしょうか。
大泉:学園祭のようにみんなでわいわいしながら、それぞれの芸術を結集させて1つの作品に仕上げていく過程を楽しめることだと思います。もちろんこれは役者の仕事に限ったことではありません。役者は俳優部と言われるぐらい、撮影部、照明部、録音部など様々な部署がある中の1つの役割ですから。
もう1つは月並みですが、各部署が命がけで作り上げた虚構の世界で、自分とは全く異なる人生を歩むキャラクターを演じられることです。今回の映画のように辛い役を演じることもありますが、苦しみながら向き合い続けることで改めて気付ける大切なことが沢山あると思っています。
どうしても役に入り込めないということはありますか。
大泉:まだまだ役者として未熟なので他人と比べてどこまで役に入り込めているのかは正直わかりません。ただ、台本がない状態で決めなければいけない仕事もあるので一概には言えませんが、入り込めないと思う役は恐らく引き受けないと思います。
大泉さんはバラエティ番組や司会でも活躍されています。出演するたびに多くの人を笑顔にしている印象がありますが、大泉さんのポジティブオーラはどこから来ているのでしょうか。
大泉:そう言ってくれる方が多いのですが、僕自身絶対にポジティブな男ではないんですよね。基本的に文句とぼやきで構成されていますから(笑)。ただ1つ言えることは、“人に楽しんでもらいたい”という思いが圧倒的に強いんだと思います。
そのような思いを抱くことになったきっかけはあるのでしょうか。
大泉:実は物心がついた時から、なぜか人を笑わせたいとしか思っていなかったんです。ちょうど今、山田洋次さんの映画を撮影しているのですが、僕が最初にやったモノマネというのが『男はつらいよ』シリーズの「寅さん」でした。3歳か4歳ぐらいだったと思うのですが、「そうだろ、さくら」って寅さんになりきって言うのを大人たちが笑って見てくれて。その当時から笑ってもらえることが嬉しかったのだろうなと思います。
その気持ちが今のお仕事にも繋がっていると。
大泉:そうかもしれないです。紅白歌合戦の司会の時も「SONGS」の司会の時も、何をしていても“人を笑わせたい”と思っているんですよね。もちろん悪目立ちをする気持ちはないですし、匙加減も難しいのですが、やっぱり僕と誰かが絡む時には笑いを生み出したいという願望が必ずあります。
ただ、そこは他の役者さんと大きく違う部分だと思います。役者もやるけれどこれ程までにバラエティが好きというのは僕くらいで、中々いないと思います(笑)。
【作品詳細】
映画『⽉の満ち⽋け』
公開時期:2022年12月2日(金)
原作:佐藤正午「⽉の満ち⽋け」(岩波書店刊)
出演:⼤泉 洋、有村架純、⽬⿊ 蓮(Snow Man)、伊藤沙莉/田中 圭、柴咲コウ
菊池日菜子、小山紗愛、阿部久令亜、尾杉麻友・寛 一 郎、波岡一喜、安藤玉恵、丘みつ子
監督:廣⽊隆⼀
脚本:橋本裕志
製作:2022「⽉の満ち⽋け」製作委員会
配給:松⽵株式会社