ヴェイン(VEIN)の2026年春夏コレクションが発表された。

“痛み”が繋ぐ人と人

さまざまな価値観が林立するなか、不毛な相対主義に陥らないために、何が起点となりうるだろう──たとえば、「痛み」ではなかろうか。痛みとは、まずもって個人的なものである。他者の痛みを肩代わりすることはできないし、自己の痛みをそのままに伝えることも叶わない。痛みはどこまでも、〈いま・ここ〉の身体と心に結びついてやまないのだ。けれどもだからこそ、他者の痛みを想像し、理解しようとする必要があるだろう。痛みを起点に、人と人との繋がり、小さな共同体が立ち現れる──今季、ヴェインがテーマとした「HURT COMMUNE」を、まずはこう捉えることができよう。

今季、発想の源となったのが、ヴェインのデザイナー榎本光希が、自ら怪我を負った経験であったという。それは、思うように動かない身体に葛藤を覚える一方、人の手助けの温もりを感じるものであった。コレクションでは、こうした経験を反映した要素を、構造とデザインが一体となるヴェインの衣服へと取り入れている。

テーラリング、ワークやミリタリーなどをベースとしつつ、ウェアには、怪我の経験を反映したディテールを、随所に取り入れている。たとえば、ブルゾンにはエルボーパッチを、袖先まで伸びるパターンの一部のように表現。タンクトップは、アシンメトリックに長く設定することで、腕吊りを彷彿とさせるデザインに。ショート丈やロング丈のパンツは、リカバリーパンツを着想源に、ウエスト周りを切り替えて仕上げた。

痛みの体験をデザインに昇華するとき、その取り扱いはあくまでさりげないものだ──たとえば、エルボーパッチをスリーブに組みこむときのように──。それは、衣服を構成する構造を、そのままデザイン要素と連続させる、ヴェインの基本的な発想と呼応しているといえるだろう。実際、テーラードジャケットでは、ボクシーなシングルブレストを基調としつつ、フロントボタンを横に2つ連ねることで、セミダブルへと自然に移行するよう仕立てられている。

痛みを起点とするには、つねに感覚を鋭敏に開いておかねばなるまい。デニムパンツやワークジャケットの、経年変化を帯びたような風合い。ワッフル地パンツの、ややしっかりとした質感。あるいは、淡く、くすみを帯びたようなピンクにパープル、ミントグリーン、オフホワイト、グレーといった色調。鋭敏な感覚は、素材の質感や色に映しだされている。なぜなら、その時ごとに感じられる痛みとは、〈いま・ここ〉に現れる一回的なものなのだから。