アンリアレイジ(ANREALAGE)の2026年春夏コレクションが、2025年9月30日(火)、フランス・パリにて発表された。
インビテーションには何やら赤いハートのオブジェクトが同封されていた。ボタンを押すと、ドクドク、ドクドク、と鼓動の音が。この心臓の音はコレクションにどんな関係があるのだろうか?──毎シーズン、最新技術を駆使して見る者をあっと驚かせるアンリアレイジのショーだから、事前に手にしたヒントから色々と想像が膨らみ、コレクションへの期待に胸が高鳴る。
会場で配られていたコレクションノートによると、今季のクリエイションは、デザイナーの森永邦彦と、障害がある作家の才能をアートやデザインを通じて社会に広げる活動を行う「ヘラルボニー(HERALBONY)」との出会いからスタートしたという。呼吸をするように自然に、圧倒的な力と美しさを伴った作品を生み出すアーティストたち。彼らの作品に触れた時、「これは単なるアートではなく、命の結晶そのもの」だと感じ、衝撃を受けたと森永は語る。
彼らには世界がどう見えているのか、私たちにはどう見えているのか。同じ場所にいながら、なぜ景色が異なるのか。この世界を隔てる境界とは何か。様々な思考を巡る中で、森永はその境界を越えた先に現れる“純粋な命のかたち”を可視化したいと考えるようになった。
だから今季のアンリアレイジは、「♥」がテーマである。服に命を宿し、形なき鼓動を纏うこと、言うなれば「生命の可視化」を試みた。
キーピースとなるのは、“生き物のように動く服”。贅沢にフリルをあしらったドレスは鼓動のリズムに合わせてフリルも脈打ち、花弁のように構築的なフォルムに仕立てたブルゾンは、そのフォルムを形作る骨組み自体がうねっている。歩みとともに揺れる、風を受けてはためくといった受動的な動きとは別に、洋服自体が意志を持って踊っているのだ。
“動く服”に描かれているグラフィックは、すべてヘラルボニーに所属する18人のアーティストが描いたもの。カラフルなドットに数字を重ねたグラフィックや、緻密な線の集合体で描かれた動物や風景、色彩がひしめく幾何学模様…。ダイナミックな色柄がいきいきとした躍動感を生み、見る者を未知のアートの世界へと誘ってゆく。
学校の制服をイメージしたピースも散見されたが、そのどれもが超構築的なシルエットで再解釈されている。胸に紋章を配したブレザーはヘムラインを曲線的にカッティングし、バックスタイルにかけてぐるぐると渦巻くようなデザインに。ストライプシャツは空気を包み込むようなバルーンスリーブ、ポロシャツはウエストから立体的に膨らんだベル型のシルエットに仕立てている。
服を液晶スクリーンに見立てた先シーズンの技術を応用し、黒のボストンバッグには動く絵文字をオン。まるでスマートフォンの画面をそのまま落とし込んだように、ハートや目の絵文字が点灯する。シューズからも同様に、ハートの絵文字を映し出したブーツが登場。ローファーは耳と尻尾を付け、架空の動物のような姿に変貌させた。