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ドレスドアンドレスド 2026年春夏コレクション - 記憶、あるいはひと繋がりの自分であること

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ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)の2026年春夏コレクションが発表された。

記憶について、移ろうことについて

ドレスドアンドレスド 2026年春夏コレクション - 記憶、あるいはひと繋がりの自分であること|写真8

人生についてのコレクションを作りたかった──ドレスドアンドレスドのデザイナー・北澤武志は、こう語っている。では、人の生について考えてみたとき、ある人をひとつの主体たらしめるものとは、何だろう。刻一刻と変化してやまない自分というもの、千変万化する光景を知覚し続ける自分というものが、なおもひと繋がりの自分として感じられるのは、何ゆえだろう。デザイナーの北澤にとって、そのように不確かな人の主体性を浮かびあがらせるのが、記憶にほかならなかったのではなかろうか。

ドレスドアンドレスド 2026年春夏コレクション - 記憶、あるいはひと繋がりの自分であること|写真20

2025年春夏シーズンと同じく「SOME WOMEN」と銘打たれた今季のドレスドアンドレスドは、だから、記憶についてのコレクションであり、時の経過についてのコレクションである。あるいは、時が流れてもなお、自分が自分であり続けることを確かめるコレクションだと言ってよいかもしれぬ。試しにコレクションを見渡してみれば、ヴィンテージ加工の金具が鈍色にきらめくタンクトップや、指紋、つまり手の痕跡をモチーフに刺繍を施したシャツなど、時の経過、そして人の存在を仄めかす要素が、随所に息づいている。

ドレスドアンドレスド 2026年春夏コレクション - 記憶、あるいはひと繋がりの自分であること|写真14

このように時の経過はしばしば、ものが朽ち、崩れ、色褪せゆくという現れ方をする。それを「移ろい」と言ってもよかろう。衣服にこの「移ろい」の感覚を帯びさせること──その特権的な例が、手作業でダメージを加えたテーラードジャケットである。ドレスドアンドレスドが継続的に用いてきた3つの素材──ハリのあるウールギャバジン、かすかに起毛したコットンモールスキン、そして凹凸状に波打つサテン──を採用し、構築的に仕立てたフォルムはそのままに、大小さまざまの傷や穴を、あたかも星空のごとく散りばめたのだ。

ドレスドアンドレスド 2026年春夏コレクション - 記憶、あるいはひと繋がりの自分であること|写真12

明晰なフォルムは、ある人を主体たらしめる輪郭にほかならない──ドレスドアンドレスドにとって、ブランドを象徴するテーラリングとは、不確かな主体の存在をこのようになぞるものであった。その確固たる造形は一見、時を超越するもの、つまり永久に持続するかのように思える。そこに移ろいはない。思えば、19世紀半ばのヨーロッパでスーツの原型が生まれたとき、装飾や色彩をことごとく削ぎ落として純粋にフォルムを造形しようとしたテーラリングは、古代ギリシア・ローマを模範とした新古典主義と通底するものであったはずだ。

ドレスドアンドレスド 2026年春夏コレクション - 記憶、あるいはひと繋がりの自分であること|写真16

新古典主義において理想とされたのは、彩色を施していない、古代の明晰な造形であった。そこでは、色の感覚性ではなく、形の理性に重きが置かれた。ところが古代の彫刻や建築には、かつて鮮やかに彩色が施されていた──無彩色の理想的な造形は、時の経過とともに色彩が褪せたことで立ち現れたものであったのだ。いわばここで、時を超越した理想は、時の経過をつうじて仮構されている。翻って、スーツにダメージを加える今季のドレスドアンドレスドは、理想的なフォルムを具現化するテーラリングが、実は移ろいなくしてはありえなかったのではないかと、ひりひりするような感覚で抉り出しているのではなかろうか。

ドレスドアンドレスド 2026年春夏コレクション - 記憶、あるいはひと繋がりの自分であること|写真24

古代彫刻の身体とそれを覆う色彩。そこに見るように、覆うものと覆われるものの二項対立こそ、ドレスドアンドレスドが──ブランド名にも冠しているように──問い続けてきたものであった。服を「着ている」ことと「脱いでいる」ことでは、一見すると、後者の「脱いでいる」こと、裸形であることがまずあるように思えるかもしれない。けれども、「undressed」が「dressed」に否定の接頭辞「un」を付すことで構成されるように、先行するのは「着ている」ことであって、裸形とは着衣ののち、事後的に仮構されることになる。この意味で裸形とは、何かイメージの薄い膜に覆われている。ヌードがエロティックたりうるのは、それゆえだろう。

ドレスドアンドレスド 2026年春夏コレクション - 記憶、あるいはひと繋がりの自分であること|写真4

皮膚に張り付くようにタイトなタートルネックや、身体を物理的には覆いつつ、視覚的には透かして見せるフィッシュネットのミニドレスは、着衣と裸形とが紡ぎだす両義性を具現化している。ここで身体は、「dressed」と「undressed」という関係性のさなかにあって、イメージの薄い膜に覆われていると思えよう。しかしそこに、イメージの薄皮を突き破る、剥き出しの感覚はなかっただろうか──それは温もりの感覚であろうか、あるいは「ひりひりするような感覚」であろうか。記憶とはそのように、視覚的なイメージばかりでなく、触覚的な感覚でもありえよう。記憶とはだから、移ろう生に蠢いてやまぬ、身体の感覚と深く関わっているのだ。

ドレスドアンドレスド 2026年春夏コレクション - 記憶、あるいはひと繋がりの自分であること|写真2

テーラリングとは北澤にとって、ダメージを重ねてもなお、そのフォルムこそ崩れることのないものであった。いわばそのように、移ろってもなお、記憶という移ろいの足跡をつうじて、自分は自分たりえる。だから今季のドレスドアンドレスドは、記憶を回転扉に、「着ている」ことと「脱いでいる」ことに蠢いているはずの生の感覚を、たしかにすくい上げようとしているのではなかろうか。なぜならそこで移ろいの感覚とは、自らの手作業でもってダメージを施す、身体の身振りにおいて確かめられているのだから。

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