アンセルム(ANCELLM)の2026年春夏コレクションが、2025年9月1日(月)、東京・新宿にて発表された。
「視点を変えた経年変化の提案」をコンセプトに、岡山の熟練した職人による丁寧な加工を施したウェアを展開してきたアンセルムが、初のショーを開催。ショーだからと気を衒うことなく、ブランドの根幹にある古着のテイストと加工が織りなす奥行きのある表情を基調としつつ、デニムをはじめとするワーク、ミリタリーに、ラフに仕立てたテーラリングといったトラッドを織り交ぜつつ、表情に富んだウェアを展開した。
前述のように、アンセルムの鍵となる言葉が、「経年変化」の表情だ。つまり、時間が流れて、生地は次第に色褪せる。擦れてダメージを受け、ほつれる。着るほどに馴染んで、柔らかな肌理を示す──そのように、時の移ろいとともに「あたかも」衣服が変化して織りなす表情を、手作業による加工で表現するのだ。
たとえば、重厚なレザージャケット。ガラスコーティングを施してレザーの濃密な質感を引き立てたのち、その表面を削るという工程を経ることで、時の移ろいを身に帯びたような、独特の佇まいを生みだす。ここで、通常はレザーに行わない加工を、素材に「あえて」施している。こう言ってよけばある意味で作為的に──しかしもちろん、それは自然と馴染む表情だ──つくりものめいたかたちで、時の移ろいを表現しているのである。
「移ろい」を「つくりもの」めいたかたちで捉えること。それはすぐれて、日本的な感覚ではなかっただろうか。日本古来の自然観において、魂は万物に宿り、あらゆる場所に遍在する。そのようにあちこちを移ろってやまぬ魂を呼び寄せるのが、棒を立てることで降臨の場所を示す、仮設的な「つくりもの」にほかならなかった。
そう思うと、アンセルムの根幹にある丁寧な加工とは、自然で奥行きがありながらも、どこか「つくりもの」めいていなかっただろうか。それは、先に挙げたレザージャケットばかりでなく、ブランドを代表するデニムウェアにも顕著に表れている。つまり、デニムの色を落とし、複数の染料を薄く重ねて、あるいは随所にダメージ感を与えることで、時の移ろいを経たような奥行きのあるデニムパンツやデニムジャケットに仕上げているのだが、あえて通常の経年変化ではダメージが現れない箇所に加工を施すことで、移ろいの表情が実は精緻な加工にほかならぬことを仄めかしているのだ。
移ろいとは、漸時的なものだ。そのようにグラデーションをなして進む変化は、アンセルムにおいて、薄く、肌に馴染むような素材感と、それらを重ねるレイヤードに顕著に現れよう。袖を裁ち切りで仕上げ、リラクシングに仕立てたテーラードジャケット、どこか着古したような質感のブルゾンやロングシャツ、ダメージを加えたカットソーなど、アウターからインナーにいたるまで丈感に変化をつける、レイヤードの漸時的な変化をはっきりと認めることができる。
つまり、衣服が身体をシャープに覆うのではなく、層状に、徐々に、ソフトに包みこむ。アンセルムにとって衣服とは、身体を外界から遮るものというより、それを介して外と内とを緩やかに架橋するものではなかろうか。風の行き交う、透かし編みのカーディガンを見て、あらためてそう思う。なぜならアンセルムの衣服とは、時間の流れ、内と外、そうした移ろいの相を繊細に捉えるものなのだろうから。