オムナ(HOMMENA)の2026年春夏コレクションが発表された。
自分という存在は、確固たるイメージを持っているのだろうか。自分が知っている自分は、他者が認識する自分とは異なっているだろう。他者から見えない部分があるだろうし、他者の視点からこそ見えてくる部分もありうる。逆に、他者にこう見られたいという思いから、自己演出をすることだってある。たとえば、伝統的な西洋絵画を思い起こせば、肖像画とはしばしば実際の人物を理想化して描くものであり、瑕疵は理想に沿って巧妙に隠されたのであった。
2024年秋冬シーズンにスタートしたブランド・オムナのデザイナーを務める加藤大地は、このように差異の緊張を孕みつつ、他者との関わりにおいて自己の像を紡ぎだす関係を、「共犯関係」と呼んでいる。加藤にとってその認識は、実感をとおして得られたものであった。フランス・パリに暮らした加藤は、ボッター(BOTTER)やニナ リッチ(NINA RICCI)で経験を積んでいる。5年にわたるパリ生活のなか、自身はよそ者であると感じつつも、加藤はある時、「もうパリジャンだね」と友人に言われたのであった。
加藤はこの時、嬉しく思ったという。同時に、パリジャンだと認められたのだという思いが生じるのは、自分が本当はよそ者であるからにほかなるまい。この、自己と他者の認識のあいだにある、微妙な差異。それは、たしかに自分というイメージをぐらつかせるものである一方、他者と関わりつつ生を紡ぐ自己という存在を織りなすものでもある。「Je ne corresponds pas.」──日本語では「私は一致しない」を意味する──をテーマとした今季のオムナにとって、このように差異を孕んだ「共犯関係」を具現化する例が、衣服なのだということができる。
他者との関わりに応じて変幻してやまない、自分という存在。そのように不定形な自分というものは、明晰な構築性によって輪郭付けるほかない。その最たる例が、オムナが得意とする構築的なテーラリングだろう。サファリジャケットは、ポケットやエポーレット、バックタックなど、ミリタリーウェアならではのディテールを踏襲しつつ、立体感がありつつも軽やかな仕立てに。素材にも、クラシカルなストライプ地を採用するなど、端正さが引き立つ仕上がりとなっている。
刻一刻と変化する自分が織りなす、ある一瞬のイメージを留めおくのが、形状記憶のボーンを入れたウェアである。オムナが得意とするミリタリーやワークを軸に、構築的なサファリジャケット、柔らかなレザージャケット、上品なシャツなどには、衿や裾、フロントなどにボーンを忍ばせることで、自在なフォルムを描きだす。元となるウェア自体は、現代の衣服として親しまれるものであるぶん、変幻するラインがそこからの差異をいっそう引き立てるのだ。
絶え間ない差異化の運動は、衣服のディテールやシルエットにも及んでいる。ストライプ柄のパンツは、アンダーウェアや断ち切りのライニングが垣間見える。ヴァトープリーツを彷彿とさせる、バックギャザーを寄せたシャツは、深い襟ぐりに通したリボンを絞れば、首周りにギャザーが華やぐ。あるいはショートパンツは、フロントを大胆なタックで仕上げ、シアーなポロシャツはスリーブの位置を歪め、身に纏えば歪んだように大きくドレープを織りなす。どこか不安定でありながら、それでいてその時々の佇まいを織りなす差異の運動を、今季のオムナは体現していると言ってよいだろう。