2024年9月27日(金)に公開の映画『Cloud クラウド』にて、主演を務めた菅⽥将暉と、監督・脚本を手掛けた黒沢清にインタビュー。
現代に潜む“集団狂気”を描いたサスペンス・スリラー映画『Cloud クラウド』。主人公・吉井良介は、町工場に勤めながら転売で儲けていたが、社長から管理職昇進を打診されたのをきっかけに辞職し、郊外の湖畔で恋人との新生活をスタートする。
転売業が軌道に乗ってきた矢先、吉井の周りで不審な出来事が重なり始める。徘徊する車、割られた窓ガラス、ネット上の悪意ー。そんな憎悪の念は、次第に狂気的な集団へと変貌する。その標的となった吉井の「日常」は急速に破壊されていく…というストーリーだ。
映画公開に先駆け、“天才”菅田将暉と“巨匠”黒沢清の対談インタビューが実現。初タッグを組んだ『Cloud クラウド』は、ベネチア国際映画祭とトロント国際映画祭への出品、そして米国アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品に選出されている。そんな話題を集めるサスペンス・スリラー映画の誕生秘話から、菅田の俳優としての向き合い方、黒沢視点で見る日本映画業界、2人の映画製作におけるポリシーまで、貴重な話を伺った。
まず、映画制作において1番大事にしていることや、一貫して心がけているポリシーをお伺いしたいです。
黒沢:僕は、事前にあれこれ考えちゃうタイプなんですが、最終的には全て信じることです。俳優もスタッフも、僕が頭の中で描いていたものを上回る何かをやってくれるはずだと信じることが、僕の仕事の1番大きなポイントだと感じています。100%信じると本当にやってくれるもの。信じられた方が責任重大と感じるのかもしれませんね。
菅田:お芝居する上で一貫しているもの、なんでしょうね…。役って不思議で、自分が選んでるようで選ばれていたり、選ばれてるようで選んでいたりする。毎回、今この役をこうやるべきなんだろうなって思ってしまうんです。実は今回もそう。その時々の自分の人生のタームにアジャストされているような感覚がありました。
『Cloud クラウド』では、具体的にどう感じられました?
菅田:個人的なことですが、『Cloud クラウド』は、自分が父親になる前に参加した作品です。それが乱闘や銃撃戦を繰り広げたり、生きるか死ぬかの局面に立ち会った時にどうするか?というお話。ちょうど祖父世代の方々が亡くなっていき、子供が新しい命として生まれていくという、その間の世代に自分は置かれています。今回の“生死に向き合う”役柄も巡り合わせだなと思いました。こういうような気持ちを毎回感じるので、これからも役柄を大切に受けていきたいです。
なぜ引き受けられたのでしょう?
菅田:僕が演じた吉井は、ギリギリラインで生きている普通の男。本人に自覚はないけれど、どんどん争いに巻き込まれていき、最終的に抗争劇が繰り広げられるという…違和感がないストーリー展開とスリリングな面白さに興味が湧いたからです。脚本読む前から出たい!と思ってましたけど。(笑)
“現代社会の闇”ともいえる題材を描く作品を撮りたいと思った理由は何でしょうか?
黒沢:それは結果的なものでして、現代社会の闇を暴き出すために作ったわけではありません。前々から現代の日本の設定で、痛快ではないけども激しい戦闘状態になるような映画を作りたいと思っていました。拘ったことは、登場人物たちは、警察などではなく普通の人々であること。戦いに縁のない人たちが最終的には生きるか死ぬかの状況に追い込まれていくような娯楽映画が撮りたかったんです。
そのために用意した物語の舞台が現代の日本。インターネットや転売屋は、1歩先に行くと危ない世界にも繋がります。目的は違ったのですが、結果として設定が現代社会の闇に繋がるような作品になりました。現代的な設定を目指した結果こうなったという感じです。
菅田:転売やSNSの書き込みで集まるというのは確かに現代的かもしれません。転売禁止って(映画パンフレットを指して)ここにも書いてありますし。(笑)でも、日本でも撃たれて亡くなってしまう方はいますし、報道されてないニュースもたくさんあります。このストーリーは完全にフィクションだって 言い切れます?と思ったりしてしまう。
設定が普通の人だからか、見ている側もどんどん引き込まれていくようなストーリー展開になったのかなと感じています。
菅田:何者でもないけど、ギリギリのラインで生きてる“普通の男”が、気がついたらどんどん巻き込まれていって撃ち合いになる。ストーリー展開も違和感がなく進むところが怖く、この映画の面白さだと思います。僕が最初にこの脚本を読んだ時の印象や興味深さはここにありました。
『Cloud クラウド』を通して観客にメッセージを伝えるとすると?
黒沢:娯楽映画ですから、 楽しく見ていただいて、ご自由な感想を持っていただければそれで十分です。(笑)主人公の吉井に乗っかって最後まで見守ってくれた方は、彼が最後どこに行き着き、この後どこに行こうとしているのか、想像できるラストになっていると思います。ある種の特殊な体験を経た、元は普通の男だった吉井の今後の行く末に、日本が今後どうなっていくかを重ね合わせて、いろいろ想像していただければ嬉しいです。日本も重ね合わせるというのは今ここで思いついたんですけどね。(笑)
菅田:僕が演じてみて、そして完成した映画を見て思ったのは、やっぱり“サスペンス・スリラー”というジャンルが好きってこと。個人的に1番プライベートで見るジャンルなんです。(笑)
日本映画でももっと増えてほしいです!日常生活の中で、ちょっとした怖さや不気味な出来事が巻き起こっていくような…ヒリヒリ感みたいなエンターテインメントが好きなので、 “面白くないスリラー”っていうのが皆さんに伝わればいいなと思います。
“サスペンス・スリラー”へのイメージがガラリと変わりました。
菅田:しかもR指定がついてないんです。ほんとですか!?これ小学生見ていいっていうのがすごいですよね。 (笑)ぜひぜひ見てほしいなぁ。
監督はR指定をつけないように…と意識されているのでしょうか?
黒沢:いや、それはさすがに意識してないです。(笑)僕は幸いにも今まで1回もそういう指定受けたことがないので、審査の内実は知りませんけども…機械的な分類だとどれもパスするようですね。(笑)ひどいことをしている描写はあるんですが、暗くてよく見えないとか、遠くでやってるとかで。
素晴らしいです!(笑)
『Cloud クラウド』は、ベネチア国際映画祭へ出品されました。黒沢監督は、日本の映画業界全体をどう見られていますか?
黒沢:日本映画は頑張っているという前提で、あくまで“撮る側”である僕の主観になりますが、万人受けする映画と、ヒット作とは一線を引いた、映画祭などで評価される作家的な映画とで、完全に分離している印象があります。すごく才能のある監督も、大ヒットさせる監督も、お互い自分の領域からは出ない…もう少し融合できないのかしら?と思いますね。
菅田:その点、俳優はわりと自由に作品を行き来しているかもしれないですね。
黒沢:俳優が自由に行き来してるのは、日本映画の最大の強みかもしれない。超大作に出演するような俳優も、内容さえ気に入ればマイナーな映画にも出演しますよね。例えばハリウッドだと、有名スターのギャラがあまりに高いので、規模の小さな映画には出ず、キャスティングの時点で俳優が完全に分かれています。
日本の俳優は映画の規模にこだわらず、ギャラが低くても、内容が気に入ったら出るよという自由はあるよね。ものすごく有利な点だと思うから、監督だってもっと行き来すりゃいいのにな~と思います。
俳優だけでなく、監督が自由に行き来するためには何が必要か、お考えはありますか?
黒沢:自分のことを、こういう監督だと決め込まないことでしょうか。昔と違って、映画監督の社会的地位なんて吹けば飛ぶようなものですから、失敗を恐れず、と言うか失敗しそうなものにこそ興味を持って突き進んでいけば、それまで気づかなかった自分の興味や可能性を発見できるように思います。