ディオール(DIOR) 2021年春夏コレクションが発表された。
モードの起源である“カット”の意義を追求した今シーズン。マリア・グラツィア・キウリは、メゾンのヘリテージに敬意を示しながら、ディオールの伝統的なシルエットを逆説的に変形させた、革新的なコレクションを発表した。
その象徴的なアイテムとなるのが、かつて女性のための“ニュールック”として誕生したアイコニックなバージャケット。そのシンボリックな“フェミニン”な強調を抑え、無駄のないシンプルなカッティングで仕上げた一着は、1957年の秋冬コレクションで、日本のためにデザインされたというシルエットを再解釈したもの。素材には麻のような涼し気なファブリックを使用することで、春夏らしい軽やかな表情に仕上げているのが印象的だ。
また今季のスタイリングの着想源となったのは、ヴァージニア・ウルフやスーザン・ソンタグといった女性作家たちの装い。中でもスーザン・ソンタグが好むホワイトシャツを、マリアのクリエーションに欠かせないメンズシャツと重ねることで、新たなアプローチを試みた。時にはシャツドレス、ある時にはチュニックとして姿を変え、ストライプ入りのワイドパンツやショートパンツとコーディネートした、リラクシングな着こなしを提案している。
全体を俯瞰してみても、ゆったりとしたシルエットが主流となる今シーズンは、その豊かな布地を引き立てるように、ペイズリーやフローラルといった華やかなモチーフをあしらっているのも印象的。また時折、繊細なレースを差し込むことで、上品かつロマンティックなムードもプラスしている。
またマリアが好むシースルーは、シルクシフォンのロングドレスとなって登場。カラーは、明るいマットブルー、深みのあるオークル―、ペールオレンジといった柔らかな色彩が揃う。ウエスト部分はスモックのように絞ったり、もしくは緩めることが可能なようで、モデルたちはそれぞれの個性に合わせたスタイリングを披露してくれた。
なおショー会場を手掛けたのは、イタリアのアバンギャルドな実験芸術を象徴するひとりであるアーティスト、ルチア・マルクッチ。“雑誌の画像”でコラージュした現代風のステンドグラスを主役にした空間には、古い弔歌を引用した合唱曲「Sequenza 9.3」が12人の女性歌手によって合唱された。