ディオール(DIOR)は、2025年フォールコレクションを京都・東寺の庭園にて発表した。
静かに花が咲く春の日本庭園で披露されたディオール 2025年秋コレクションには、“日本の装い”からのインスピレーションが随所に反映されている。
ウィメンズ クリエイティブ ディレクターのマリア・グラツィア・キウリは、世界各国によって異なる装いの文化・習慣をリサーチしていく中で、ディオールの創設者クリスチャン・ディオールのアーカイブに辿り着く。着物のシルエットに重ねて着られるようデザインされたクリスチャン・ディオールの「ディオパルト」と「ディオコート」をはじめ、和装に見られる平面的な仕立ては、建築的な考え方でファッションを解釈し“身体と衣服の関係性”を探求するマリア・グラツィア・キウリにとって創作の大きなヒントとなった。
たとえば身体をゆったりと覆うロングドレスやコート、流れるようなシルエットのガウンなど、身体になだらかに沿うようなウェアの数々は、袖を通して羽織ったりまとったりすることで生まれる着る人特有のラインを描き、個々の身体性を浮き彫りにしていく。特に、平面的なパターンを採用したコートは着用することで緩やかなドレープや曲線的な生地の流れが生まれ、身体と呼応しながら絶えず揺れ動く流動的なピースであるといえる。
また、左右の前合わせを重ね、ベルトや紐を巻いてゆったりと締めるジャケットや、前立てを斜めに仕立てた白ブラウス、ネックラインを大きくカーブさせたアシンメトリーのオフショルダーニット、着物を思わせる幅の広い袖を用いたイブニングドレスなども登場。デニムジャケットには作務衣のように前を紐で結ぶフロントデザインを採用し、ワークウェアの文脈を踏襲している。
造形だけでなく、シルクをはじめとするテキスタイルにも日本の要素が見て取れる。桜の木と鳥たちを表現した1953年春夏 オートクチュール コレクションの「ジャルダン ジャポネ(日本庭園)」や、京都の老舗美術織物工房である龍村美術織物の生地を用いたアンサンブル「ウタマロ(歌麿)」など、クリスチャン・ディオールが日本からインスピレーションを得て生み出したアーカイブピースの数々を彷彿させるルックが象徴的だ。
実際に、今シーズンのクリエーションには、龍村美術織物によるきらびやかな織物をはじめ、田畑染飾美術研究所による友禅染め、福田工芸染繍研究所による染めの技術が落とし込まれている。手染めを施し、深い青から淡い色味へと移ろうグラデーションを施した生け花モチーフのセットアップや、まるで庭園の風景と呼応するかのように生き生きとした桜の木が彩る白いロングコート、繊細な花々とともにモノトーンの陰影をつけたドレスなどが披露されている。金色に輝く絹織物の着物型ドレスも目を引いたウェアだ。
また、細やかな刺繍で草花を表現したクチュールライクなドレスやコートは、ディオールの職人技と日本の趣をかけ合わせたピースだといえる。コレクションのラストを飾ったシアーなドレスには、陽の光や若草、桜の花を思わせる淡い色味の生地に細やかなフローラルパターンの刺繍を施し、静謐ながらも華やかな佇まいを描き出した。