エー ディグリー ファーレンハイト(A DEGREE FAHRENHEIT) 2014年春夏コレクションがMBFWTのメイン会場・渋谷ヒカリエで発表された。ここ数シーズン、「温度」にインスパイアされ、化学的な要素を比喩的にデザインに落とし込んでいるこのブランド。今季のテーマに選んだのは、「1652゜F(900℃) Volatilization」だ。これは常温の元で、液体が気体になる現象、揮発を指す。
特にデザインソースとなったのは、木材から揮発成分を抜いた「備長炭」。木材を密閉空間で加熱しそのまま高温で加熱を続けると、原型を留めたまま金属に匹敵する硬度を持つ備長炭ができる。その変化をパターンテクニックやデザインで表現した。
ショーのはじめ、イスラム教徒の女性の装束「アバヤ」を身に纏ったモデルがランウェイを歩く。素材感は柔らかく、確固たる硬さを表したという「黒」というカラーリングも相まって怪しげに揺らめいた。最後に歩いてきたモデルがアバヤを脱ぎ捨てると、鮮やかなオレンジのドレスが。その炎を思わせる発色は、会場の目を惹きつけるには十分な要素だった。
カラーパレットは、オレンジや紫がかったピンク、異なる発色のオレンジ、黄、白、そしてそれらが混ざりあったりと、炎のようにゆらゆらと揺れる。「硬さと共に、炎の暖かみと発色を表現したかった」とデザイナーがいうように、これまでのモノクロの表現ではないヴィヴィッドな色味が印象的だ。
ドレスはボディコンシャスなパターンで創られ、女性特有の丸みを帯びたボディラインも相まってその立ち姿はまるで優しく立ち上る炎のよう。フレアをつけてみたり、風になびく柔らかな素材を袖にジョイントしたり、メッシュ素材を採用してみたりと、ディテールには必ず暖かみを潜ませた。また今季から登場したメンズには、セットアップやトレンチコートなどのクリーンなアイテムがラインナップしていた。
メッセージ性のある服作りを心掛けているというエー ディグリー ファーレンハイト。「炎というものは本来目には見えないもので、第六感で感じていただいて欲しいと思った。感覚というのはコミュニケーションの一つ」と、デザイナーの天津憂は語った。揺らめく炎の中に、感性の鋭さを磨く確固たる「何か」が潜んでいる。