「STAR CREATION」とは、2009年よりシンガポールで毎年開催されているファッションイベント「アジア・ファッション・エクスチェンジ(以下AFX)」内の新人デザイナーコンテスト。アジアのベスト新人デザイナーを競うファッションデザインコンテストとして今年で3度目の開催となる。昨年の「STAR CREATION 2011」において、新鋭デザイナー渡部紘之が日本人としてアウディ・ヤング・デザイナー賞を勝ち取った。

渡部は2010年に専門学校を卒業後、自身のブランドを設立し、ファッションデザイナーとして活躍している。世界でアジア・エスニックファッションへの興味が高まっている中、当コンテストで発表された彼のコレクション“Modern Folk Costume”は高い評価を受け、見事受賞を果たした。このコレクションは、エスニック調にストリートスタイルの要素を取り入れ、モダンでシックな雰囲気を兼ね揃えたレディスウェア。今回、そんな渡部氏に自身のコレクションとAFXの魅力について聞いた。

アウディ・ヤング・デザイナー賞を受賞された感想はいかがですか。

日本で今までの経験で培ってきた力を発揮すれば、十分に受賞の可能性があると自信があったので、受賞自体はそこまで驚きではありませんでした。アジアの他の国にはない、日本という独特のファッション環境で育った結果だと思っています。

今回の応募のきっかけを教えてください。どこでスター・クリエイションの応募を知りましたか。

ファッションウィークが開かれるなど、シンガポールのファッションシーンが盛り上がりを見せていることは以前から知っていましたし、シンガポールだけでなくアジア全体を巻き込み、商業の中心にしようとしている意気込みも感じていました。その流れに入り込む方法を探していたところ、偶然インターネットで募集を見つけたというのがきっかけです。

今回のコレクション“Modern Folk Costume”についてお聞きしたいのですが。

まず開催国がシンガポールだったので、シンガポール国内はもちろん周辺国の民族衣装や色彩を徹底的に調べました。色の部分では、特に現地の民家の建築・装飾などからもインスピレーションを受けています。実はシンガポール国内では、日本で言うストリートアイテムの要素(パーカー、ブルゾン、スニーカーなど)がほとんど見られません。それらの要素をアジアの文化(民族衣装)と融合させたのが今回のコレクションです。当初どんなリアクションが返ってくるのか楽しみにしていましたが、感覚的になかなか馴染まないのが現状のようです。特にスニーカーをおしゃれにに履くという感覚がまだないので、今回のコンセプトはチャレンジングな試みでした。

音楽や映画などで、渡部さんのクリエイティブに強く影響しているもの、インスピレーション源はありますか。

ジブリ映画やテレビドラマなど、かなり身近な物からインスピレーションを受けてますよ。

新鋭のデザイナーとしてこれまで国内外で数々の賞を受賞されていますが、中でも今回のAFXについて、出品者としてイベントの魅力を教えて下さい。

規模の大きさは、皆さんが想像しているよりも確実に大きいものです。これほどインターナショナルなコンペに参加できたことは、本当に良い経験になったと思います。それに、自分が住む日本と他の国の違いを肌で感じたからこそ、自分の国の強みを再確認できましたし。さらに、僕は日本のバブル時期を知らずに育ち、「物心ついた頃から日本は不景気」という世代ですが、かたやシンガポールは今がバブル時期であり成長期です。バブルの空気を違う国を通して感じる事ができたという事は貴重な経験です。

今回受賞されて、受賞前と変ったことはありますか？

現在自身のブランド「Hiroyuki Watanabe」の活動をしていますが、受賞した事がブランド展開においても強みになっています。受賞がきっかけで新たな重要な出会いも数多くありました。

デザイナー活動としての今後の予定、近況などをお聞かせください。

3月下旬にHiroyuki Watanabe 2012-13年秋冬コレクションの発表を予定しています。

最後に、これからファッションデザイナーを志すアジア中の若者に向けて、メッセージをどうぞ。

現在世界のマーケットの中心はアジアです。その中で常に互いに競争し合って成長出来れば、アジアから今後もっとたくさんの素晴らしいクリエイターが生まれると思います。数多くのライバルを作って切磋琢磨していきましょう！

【デザイナー プロフィール】
渡部紘之(わたなべ・ひろゆき)
1987年生まれ、島根県雲南市出身。2010年、広島ファッション専門学校卒業。学生時代は、新人デザイナーファッション大賞秀作賞・装苑賞入賞など数多くのコンペに入賞。2011年1月ブランド「Hiroyuki Watanabe」をスタート。5月にシンガポールファッションウィークにて開催された「STAR CREATION 2011」にてアウディ・ヤング・デザイナー賞を獲得。「Hiroyuki Watanabe」のアイテムは同年9月に広島店天満屋八丁堀店、10月に新潟伊勢丹で期間限定発売された。現在は「渋谷パルコ」「なんばシティ」「福岡のパルコ」のインショップ「MAKE ONES MARK」などで商品を取扱中。

【「STAR CREATION 2012」概要】
会場 ： ニー・アン・シティ
コンテスト参加者数 ： 総勢144名(※2011年度)
参加者出身国 ： 日本、中国、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ネパール、ミャンマーなど
参加資格 ： ファッション業界での勤務経験が2年未満で16歳～35歳のアジア人デザイナー限定
2012年度テーマ ： Fashion Without Frontiers(国境無きファッション)
優勝特典 ： 賞金1万シンガポールドル(約70万円)、ファッション・ブランド「FJ Benjamin」での1年間の研修を受ける権利