オダカ(ODAKHA)の2025年秋冬コレクションが発表された。
見慣れたものが、不意に、自分が見知っているのとは異なる表情を示すことがある。あるものを見知るとは、いわば、そのものを何がしかの関係性のなかに位置づけ、意味の連関という網目の裡に捉えることだ。だから、見知ったはずのものがこうした意味の連関から外れたところに現れると、どうしようもなく解しがたい思いに囚われてやまないのだろう。
それならば逆に、こういうふうに言うこともできよう──自分が慣れ親しんでいる意味の連関をいったん外すことで、見慣れたはずのものも、見知らぬ表情を示しうる。今季のオダカにとって、そういった捉え方を仮託したのが、「クローゼットの中のリゾート」というコンセプトであった。そこで「リゾート」とは、非日常的な楽しみを意味するのではない。接頭辞の「re-」が示すように、あるもの──ここでそれは、「クローゼット」というどこまでも身近な存在だ──を捉え「なおす」、そんな身振りを意味している。
「知っているはずの、知らないもの(The Unfamiliar Familiar)」──今季のテーマをオダカは、ニットやミリタリーといった日常的なウェアに、ある種の違和感をもたらすことで表現している。たとえば、タフなイメージを持つミリタリージャケットは、バックをチェック柄のニットで切り替えて、温もりをプラス。繊細な透け感を持つニットドレスなどは、随所にしっかりとした太糸を編みこむことで、立体感あるシルエットに。スウェットパンツは、チェック柄を大胆な手編みクロシェで表現したニットを組み合わせ、リラックス感とトラッド感を緩く交えた。
ところで、このように「リゾート」という言葉を捉えなおした背景には、アーティストの大宮エリーが、2024年、京都の妙心寺で開催した展覧会があったという。この寺院には、江戸時代の絵師・狩野山雪による襖絵がある。金地に松や花鳥を描いたこれらの襖絵を、「当時の桃源郷を描いた、つまりある意味リゾート」だと捉えた大宮は、自身が思う「リゾート」を、色鮮やかな襖絵に描いて発表したのであった。
使い慣れた「リゾート」の意味を、このように捉えなおす経験へと誘った大宮──その作品を、今季のオダカは随所に取り入れている。たとえば、力強い赤を中心に、色とりどりの花々が咲く《フォーチュンフラワーズ》は、立体感ある多様な編み目を駆使して、キャミソールドレスなどに表現。また、夜のネオンが艶やかに光る《パーティーピープル》は、ブラックのMA-1の裏地にプリントとして取り入れることで、表と裏の意外なコントラストを引き出した。
あるものを、普段とは異なる関係性の裡に捉えなおすと、まったく見知らぬ姿が立ち現れてくる。それほどまでに、あるものの全貌をありのままに認識することは難しい。こう言ってよければ、現実が生のままに立ち現れると、あまりに現実的であるがゆえに虚構のごとく感じられてしまうのだ。そんな逆説的な光景を、「詩的」であると言ったりもする。温もりを直に感じるまでに慣れ親しんだニットに、多様な編み目とシルエットによって違和感をもたらす今季のオダカは、この意味で、日常に見出す詩、と譬えることができたのかもしれない。