フィルム形式で発表されたディオール(DIOR)の 2020-21秋冬 オートクチュール コレクションでは、才能にあふれるお針子たちが、魔法の森の住人たちのため、オートクチュールでドレスを製作するという、特別な物語が綴られた。イタリア人映画監督のマッテオ・ガローネが描く、ディオールのための幻想的なストーリーには、メゾンのエスプリとサヴォワールフェールが色濃く投影されている。
特別に製作された幻想的なフィルムでは、ファッションドールを通じ、女性の身体を再解釈することで、オートクチュールの意義を問うた。
<ストーリー>
アトリエでは、才能あふれるお針子たちによって、ミニチュアのマネキンに着せるための衣服が休みなく作られている。こうして完成した衣服は、ディオールを象徴するモンテーニュ通り30番地を象った大きなトランクに入れられ、魔法の森へと運ばれる。
トランクを運ぶのは、同じ服を着た双子。彼らが訪れた魔法の森には、ギリシア神話に登場する泉の妖精ニンフや美少年のナルキッソス、マーメイド、銅像、そして半人半獣の自然の精霊サテュロスらが住んでいる。双子は、彼らの前でトランクを開けて、お気に入りの衣服を選んでもらい、測定の儀式を行う。そして、森の住人たちにぴったりの衣服が、お針子たちによって製作される。
こうして最後に見えたのは、オートクチュールのドレスには、感動を呼び覚まし、魅惑を刺激し、笑顔を引き出す力があるということ。そしてその力を宿す1着の影には、アトリエでクリエーションを続ける“お針子”たちの存在があるということだ。
では次に、このファンタジーのため、実際にアトリエで行われたクリエーションを紐解いていく。
今回は、崇高な37体のミニチュアオートクチュールが作成された。そしてその内、魔法の森の住人たちが気に入った6体は、“測定の儀式”を経てそれぞれの身体にぴったりの実物大を製作している。
ミニチュアは、55センチのマネキンをベースに、ライニングまで立体裁断で仕上げていく。ディテールにおいては刺繍から、手作業で入れたミリ単位のプリーツまで、メゾンの職人たちによってすべてがミニサイズで再現されていく。ラベルまでもがミニチュアだ。
37体の中には、ムッシュ ディオールが世に送り出した「ニュールック」を彷彿させる1ルックも登場している。キュッとウエストを絞った「バー」ジャケットは、1枚の布によって、前中心から後ろ中心へと流れるように繊細なドレープが施された。
「バー」ジャケットの製作にあたって、まず腰の位置を決めることが重要だという。そうすることで、ペプラムがよりナチュラルに広がっていく。ふんわり柔らかなボリュームは、ミニパディングによって形成され、なだらかに広がるスカートとの一体感を生み出す。
フィルムの中でもひときわ目を引いた、ミッドナイトブルーシャンタンを用いたコローラ(花冠)のようなコートは、3名の職人が合計150時間をかけて製作したもの。使用されたファブリックは、なんと35メートルにも及んだ。