ターク(TAAKK)の2023年秋冬コレクションが発表された。
衣服の〈強度〉とは──タークのデザイナー・森川拓野の服作りの根底には、「強い服」の探究があるようだ。今季、こうした〈強度〉へのアプローチの起点となったのは、フィンセント・ファン・ゴッホの絵画の前に立ち尽くした経験であったという。具象的な主題を描いたその画面には、細部に目を凝らすならば、厚塗りの絵具が持つマティエール、蠢くようにうねる筆致が立ち現れ、抽象的な表現と見紛う印象を与える。いわば細部が有する感覚的な力強さが、タークの〈強度〉に底流することになる。
ファン・ゴッホの細部に突き刺されるような力強さを感じたのならば、タークはむしろ、ファブリックの構造という微視性を豊かな肌理という巨視性へと転換する。ファン・ゴッホのうねるような筆致を彷彿とさせる、ほつれたようなステンカラーコートやブルゾン、あるいは立体感のある凹凸で流線的なパターンを表したチェスターコートやノーカラージャケットなどは、オリジナル素材をベースとするタークの服作りへと、微視性と巨視性の往還を反映したものだといえる。
タークが得意とする、異なる種類のアイテムと素材を徐々に移ろわせる手法も、抽象絵画を彷彿とさせる表現でもって展開されている。テーラードジャケットからMA-1ブルゾンへと移ろうジャケットは、色彩豊かな抽象模様のジャカードからナイロンへと変化。2022年秋冬に登場したフェイクレザープリントは、グラデーションをより細かに表現し、クラシカルなロングコートやジャケットに用いた。
また、タークを代表する素材である、ダメージ感をジャカードで表現したデニムは、今季はワークジャケットやデニムパンツにとどまらない多様なアイテムで展開されている。それはたとえば、ドロップショルダーで仕上げたチェスターコートであり、シャネルジャケットを彷彿とさせるストレートなラインのノーカラージャケットである。いずれも、ダメージという細部に光をあて、織物の構造で再現し、それをコートといった衣服に大胆に用いることで、細部が持っていた存在感をより引き立てている。
最後に、細部が有する〈強度〉への補助線として、20世紀フランスの批評家ロラン・バルトの著書『明るい部屋』における「プンクトゥム」を引きつけたい。写真をめぐる経験を分析するうえでバルトは、文化的なコードにしたがって写真を受容する「ストゥディウム」に対して、一般的な概念の体系を揺さぶりそれを破壊する、コード化不可能な細部を見出してしまう経験を「プンクトゥム」と呼んでいる。そしてそれはバルトにとって、「愛する」という次元にあるものであった。翻って今季のタークにおいては、有無を言わさず突き刺すような細部に魅惑され、それをファブリックの豊かな肌理へと転換することで、〈強度〉の探究がなされているように思われる。