池松壮亮にインタビュー「映画や芸術には世界を修理する力がある」
映画『開戦前夜』で主演を務める池松壮亮に、インタビューを実施。俳優として作品作りにどう向き合っているか、真摯に演技や作品作りと向き合うその姿勢に迫る。また、今作『開戦前夜』の監督を務める石井裕也との長年にわたるタッグについてや、『開戦前夜』という作品にどのような思いで臨んだのか、話を聞いた。
俳優として、"作り手”の一人を担うこと
池松さんが出演作を決める時に大事にしていることは何ですか。
作品を選ぶ際には、その物語と自分自身にどういう繋がりがあるのかを考えます。自分の父親や母親が観たら、友人が観たら、自分の知る人が観たらどう思うだろう、ということもよく考えます。
その作品において自分に何ができるのか、何をしたいのか、何を観てもらいたいのかということを大事にしていると思います。
出演作を選ぶ段階から、作品を観た人のことを想像されているんですね。
俳優は演じることが仕事ですが、一方で作り手の一人でもあります。作り手が消費者、観客のことを考えることは当たり前のことだと思います。そのあたりの責任からやんわりと逃げられるのが集団芸術ですが、僕は何に向かって物作りをするのかということと、その責任の一部を負うべきだと思っています。
想像力を養うために意識していることなどはありますか。
知らない世界を知ろうとすること。知らない考えに飛び込むこと。映画を見ること、本を読むこと、相手の立場に立つこと、いつまでも自分が知らない世界がたくさんあるという前提のもとでいることはとても重要ではないかなと思います。
実際に現場に入ってから、自分が予想していたよりもイマジネーションの幅が広がったりすることもありますか。
たくさんあります。それこそが自分にとって最も幸せな瞬間とも言えます。
人が一人では確立しないように、当然、役も一人で作ることはできません。監督、空間、美術、共演者とのコラボレーションによって役がはじめて立体的に生まれます。一人で頭の中で生み出したものではなく、世界と呼応した先にお芝居というものがあると思っています。決して自分の中だけで完結することはありません。それが集団芸術だとも思っています。
ものづくりの過程で選択を迫られたとき、池松さんは思い切って突き進むタイプですか?
基本的には慎重派ですが、いざという時やピンチの時には思い切りがいいタイプだと思います。結果を恐れず思い切って進むことは、あまり苦手ではないと思います。
演じた役から影響を受けることはありますか。
常にあります。これまで出会ってきた一人一人の役や物語によって、今の自分が形成されているという感覚があります。
映画『開戦前夜』石井裕也監督とのタッグについて
2026年7月31日(金)に公開を迎える池松壮亮の主演映画『開戦前夜』は、真珠湾攻撃の8か月前を舞台にした作品。日本の未来を担う若き精鋭たちが集められた「総力戦研究所」において、日米開戦の行方を読むための「模擬内閣」を組み、国家機密データをもとにシミュレーションを進めていく。
官僚・軍・民間の若きエリートたちが「模擬内閣」での議論の末に導き出したのは、日本がアメリカに対して「圧倒的な敗北」を喫するという結論だった。
映画『開戦前夜』では、1941年(昭和16年)4月、内閣直轄の機関として設立された「総力戦研究所」のメンバーに選抜された主人公・宇治田を演じました。アメリカをはじめとする諸国との総力戦の可能性を探る目的で結成された模擬内閣では内閣総理大臣を担いましたが、池松さんが思う理想のリーダー像とは?
難しいですね。この時代において、理想的なリーダーが不在であることは間違いないと思います。もしかすると我々は “理想のリーダー”を求めすぎているのかもしれないとも思います。
個人的には、各々が能動的に生きていれば強力なリーダーシップというのはさほど必要ないのかな、と思います。その上で、リーダーという立場にある人が、自己実現のために権力をふるうようなことはあってはいけないと思います。
責任感があって、献身的かつ、奉仕型のリーダーがもっと世の中に現れるべき、だと思います。これまでや、今の時代の価値観とは逆行するようなリーダー像が必要だと思っています。
『開戦前夜』の監督・脚本・編集を手がけた石井裕也監督とは長年タッグを組んできました。
石井監督とはこれまでも様々な作品を共にしてきました。20代前半に出会って、今僕が36歳なので10年以上の長い年月があります。
池松さんから見た石井監督の映画の魅力とは?
エンタメに逃げず、社会的なことや時代の空気と真っ向から向き合っていること。人間の物語に深く落とし込んで描かれる一つ一つの作品たちは、この国の映画界において素晴らしい輝きを放つ財産だと感じています。
「今、何を物語るべきなのか」を常に考え、世界と対話しようと試みている。高潔な野心をもって、これだけのペースで毎作品すごいレベルで発表されている。様々なジャンルの作品を手がけながら、この世界にある理不尽なものと対峙し、生きている人々を純化させ、生きる希望を見つめ続けています。それは石井映画の何よりの魅力だと思います。
現場では常に情熱的に集団を引っ張ってくれるリーダーです。まるで魔法にかけられていくような感覚になります。しかもその手腕は年々進化されています。いまだに新しい作品を共にするたびに驚いてしまいます。
時代の流れや社会との向き合い方についても話されるのでしょうか。本作をはじめ『本心』や『夜空はいつでも最高密度の青色だ』など、タッグを組んだ作品はたしかに時代性を感じます。
石井さんとは昔からよくそうした話をしてきました。目の前に映画があろうとなかろうと、10年以上、そういう時間を過ごしてきたと思います。当然、時代の変化は年々加速していて、見通しはいつも簡単ではありません。
どんな作品を生み出し、同時代に生きる観客たちに手渡すことができるのか、どんな物語を届けるべきなのか、石井作品に参加する時もそうでない時も、微力ながら共に考えさせてもらってきたと思います。
物語を届けることで、今の時代に何ができると思いますか。
今は世界が日々あちこちで壊れていく中で、世界を修理することが必要だと思っています。映画や芸術にはその力があって、そのことに、少しでも貢献していきたいと思っています。
自分たちは何を語り継げるのか。フィクションで何ができるのか。それはこれからも、自分にとって大きなテーマかなとだと思います。
さらに今作のように歴史を語り継いでいくということに関しては、長い歴史上を生きる現代の使命であるとも思っています。
"開戦前夜”、模擬内閣での話し合いが見どころに
最初に脚本を読んだときはどう感じましたか。
これまで知らなかった開戦前夜の敗北の歴史を知り、脈が上がり、息が詰まるような感覚がありました。瀬戸際で懸命に抗った自分とさほど年齢の変わらない方々の気持ちに触れ、涙が止まりませんでした。
特に印象的だったところはありますか?
私たちが一度は考えたことのある、何故日本は戦争をしたのか、その意思決定はどのようになされたものなのか。そしてそれは遠い昔の、偉い誰か一人の過ちであり、現代の市井を生きる私たちとは何の関係のないものなのか。今は戦後であり、決して戦前ではないと確信をもっていられるのか。
そうした問いに対して、これまで語られることのなかった角度で、とてもわかりやすく真っ直ぐ描いていたところです。今まさに観てもらうべき、誰もが知るべき物語についての映画が生まれてくれたと、確信しています。
模擬内閣による話し合いの場面は本作の大きな見どころとなっていますね。
机上演習のシーンは、この作品の核となる部分でした。戦争映画とはいえ、派手なアクションやスペクタクルがある作品ではなく、いわば会議映画なので、これらのシーンで観客の心をしっかりと掴んでいく必要があったと思います。リハーサルを行い、同世代の俳優たちと今作について様々話し合う中で、会議における一人一人のリアクションのニュアンスや密度が上がっていき、どんどん迫力が生まれていきました。
異なる立場からの意見が衝突する様子からは、人の心を動かすことの難しさも伝わってきます。
非常に難しいことですよね。今作で描かれているのも、言論や精神、命までも、戦争のために国家の統制下に置かれた時代に、事実に畏怖し事実を語り、黙殺された方々の物語なので。止められないと知りながらも抗い続けたエリートたちの苦悩や葛藤の中には、私たちが学ぶべきことや、決して忘れてはならないことが沢山あると思いました。
メゾン マルジェラ
シャツ 140,800円、パンツ 224,400円
(問い合わせ先 マルジェラ ジャパン クライアントサービス TEL:0120-934-779)
討論のシーンでは、言葉をどう届けるかも大切だったのではないでしょうか。
実際にはどうだったのか、何度も考えました。どうすれば伝わるのか、どうすれば説得できるのか、どんな言葉を選べば戦争は止まるのか。そうした途方もないことを、宇治田と総研メンバーと共に、毎日考え続けるような日々でした。
実際の内閣の前で発表する日に向かって、どんどんみんなで純化していくような感覚がありました。世間やマスコミの大きな論調に心を乱されず、死をも恐れず、確かに聞こえる心の声に耳を傾け、人の世を信じて、真心で語る。そういう祈りにも似た境地にあったのではないかなと思いました。と同時にそれは、令和の現代に生きる自分が、どれほど平和を望んでいるのかを試されるような時間でもあったと思います。
【作品詳細】
映画『開戦前夜』
公開日:2026年7月31日(金)
原案:猪瀬直樹「昭和16年夏の敗戦」中央公論新社
監督・脚本・編集:石井裕也
音楽:岩代太郎
出演:池松壮亮、仲野太賀、岩田剛典、中村蒼、三浦貴大、二階堂ふみ、杉田雷麟、北村有起哉、嶋田久作、中野英雄、渡辺いっけい、別所哲也、松田龍平、奥田瑛二、國村隼、佐藤隆太、江口洋介、佐藤浩市
配給:東京テアトル
※ムビチケ前売り券は6月19日(金)より発売。全国の上映劇場などにて取り扱われる。
ピックアップ
スケジュール











